ラスボス(じゃないです)
「お母さん、増援です」
「どこから!」
「これは……プレイヤー反応! ダンピールプレイヤーです」
「あーもう!」
ようやく雑魚を退けたと思ったのに!
なんでこのタイミングで……。
「アナウンスがあったようです。プレイヤー向けに王都防衛のグランドクエストが発令されています」
「プレイヤー向けに……そういうことか!」
私は今生身でゲーム内にいる。
つまりメニューとかコンソールが使えない状態。
だから私には見えないけれど、ゲーム内アナウンスがあったということになる。
……いや、これワンチャンあるわ。
明鏡止水で化けオンの世界と合一して、相手の出方をうかがう。
たしかにアナウンスでグランドクエストが発生しているけど……。
「これセーフなの? ゲーム的に勝手にクエスト作ったようなものじゃない?」
「もともと仕込まれていたようです。お母さんが攻め込むのも視野に入れていたのかもしれません」
無駄に用意周到……。
まぁいいわ、プレイヤーだとしてもぶちのめす分には問題ない!
むしろ走るだけで吹っ飛ぶ雑魚が増えただけよ。
「ご安心を。こちらも増援を用意しました」
「え?」
【グランドクエスト:ダンピールの野望を阻止せよ】
【ダンピール大陸にて大規模な戦争が発生。全プレイヤーはダンピール大陸解放のためイベント参加コマンドからこのクエストに参加可能です。王都を陥落させて新天地へ乗り込みましょう】
「運営に無理を言って用意させました。ダンピール以外のプレイヤーがそちらへ増援に向かいます」
「ナイスよマヨヒガちゃん」
そう答えた瞬間だった。
空からは次々と化け物が現れ、大地を埋め尽くさんばかりの歩兵が突撃してきた。
「いーやっほぅ! 仕事から解放されたこの瞬間のために働いてる!」
あ、ゲリさんだ。
凄い元気そう。
生き生きとしているというか、遠目でもわかるくらいに疲弊しているのに精神力だけで動いている感じがするわ。
「プレイヤー名ローゲリウス、現在イリーガルな方法でログイン日数18日目に突入。このイベントが終わったら強制ログアウトさせます」
「お願い」
あの人何してるのよ……。
いやまぁありがたいっちゃありがたいんだけどさ。
VRゲームはある種の睡眠状態だけど常に脳が覚醒しているからまったく休んでいないことになる。
それをぶっ通しで18日って……よく生きているわね。
「あれは彗星かな、いや彗星はもっとばーっって動くもんな……じゃあ敵か!」
あ、ダメみたい。
死ぬ一歩手前くらいの所にいるわ。
「……今すぐログアウトさせることも可能ですが」
「ほっときましょう。念のため救急車を向かわせる準備をしてちょうだい」
「わかりました」
うしっ、ダンピールプレイヤーはこれでいいとして……。
「待たせたわね。攻城戦よ!」
ようやくお城に手が届く距離に来た。
先手必勝120%ビーム!
「取った!」
「残念だがその程度ではな」
お城に触れるか触れないかの瞬間、撃ちだしたビームが霧散した。
散ったビームは四方に広がり、空から地表を攻撃していた飛行系プレイヤーを貫き撃墜する。
「なんてことを……この外道!」
「いやお前が言うな」
眼前に瞬間移動してきたその男、貝のようなものに乗った謎の男性は槍をこちらに突きつけてきた。
同時に背後に気配、振り返ると真っ黒なお兄さんがいた。
「我が名はノーデンス。ニャルラトホテプに与する者は許さん」
「冥界の神、ハデス……旧友の頼みとあって馳せ参じたが、帰っていいか」
「頼むから一緒に頼む! 1人じゃ絶対無理だから!」
……なんか、いきなりやる気そがれたな。




