この世全ての食材、その3倍は持ってこい
「さて、乗り込むとしてだけど私のアバターって使える?」
「不可能です。データそのものが根本から消えてますので。過去の行動記録などは残っているのでこのボディに戻り再びあちらに渡れば修復されるはずですが」
「なるほどねぇ……あれ疲れるのよね。エレベーターも中は広くないから行ける人数にも限りがあるし、やるなら私一人で行くのが正解かしらね」
マヨヒガちゃんについてきてもらいたい気持ちはある。
あるけど、正直なところ今の彼女の戦闘力が未知数で、しかもロストの危険があるとかそう言う話になってくると連れていくのは躊躇する。
他の人に応援を頼むにしてもダンピール大陸に渡ったのは私一人、ダンピールプレイヤーに知り合いはいないし、一人で乗り込むのが得策か。
「ナイ神父とマヨヒガちゃんはここでバックアップをお願い。向こうが電子の世界だからって何かしかけてきたときの対処を」
「わかりました。ご武運を」
「刹那、一つだけ言っておくことがあるよ」
珍しく真剣な表情のナイ神父。
やだなぁ、こういう時普段ぶっ飛んでる人がまともな表情するとろくなことが無いというのは経験上知っているのよ。
「木っ端とはいえ神々。君一人じゃ荷が重い。そこにいるのは先兵、天使だからね。例えるならアリと象くらいの差があると思ってほしい」
「だとしても、今後私の邪魔をするなら戦わないという選択肢はありません」
「君ならそういうだろうね。だからこの言葉をおくろう。君は一人じゃない、月並みだけどそれを覚えておきなさい」
「珍しく真面目なこと言ってる……」
「僕はいつも真面目さ。真面目に世界を面白おかしくするために全力で、真面目に、心の底から楽しい事を探して盛り上げているだけでね」
ウィンクされたので肘鉄で返しておく。
無駄に美形だからむかつくのよね……。
「いたたたた……まぁ、気を付けていってらっしゃい。君の家族や友人を悲しませてはいけないよ? 僕も楽しみが減ると悲しみの余り世界を滅ぼしてしまうかもしれないからね」
「それは恐ろしい。有言実行待ったなしなのでさっさと倒して帰ってきますよ」
「うん、準備はできているかな?」
「いえ、まずご飯です。腹ごしらえしないとどうにもこうにも……それにカロリーの貯蔵が十分でない状態でつっこんでも勝ち目ないでしょ」
「それは道理だ。よし、マヨヒガ君。一緒に刹那を送り出すフルコースを作ろうではないか! なぁに、こちらでも用意できるだけの食材を手配する。スターライブの全資金を使ってでも刹那を無事に帰らせられるだけの食事を用意しようではないか」
「はい。私も地下の食料をかき集めてきます。お母さん、2時間待っていただけますか?」
「えぇ、それともう一つお願いしてもいいかしら」
2人の目を見ながら、そう尋ねてみた。
美味しいご飯で送り出されるのは好きだ。
たとえ「明日死んでもらうような作戦があるよ」と言われているとしても、美味しいご飯を食べているときが一番生きていると思えるから。
「なんだい?」
「できる事ならば全力で」
「帰ってきた時はパーティよ。送り出しの料理よりもっと豪勢なものをお願いね」
「……くっ、ははははは! 最高だ刹那! 任せたまえ! 僕の知人全員に声をかけて最高の料理を食べきれないくらい用意しておこうじゃないか!」
「ふふっ、お母さんは本当に食べる事が好きですね。えぇ、神父に負けないくらいの料理を用意して待っています」
「それは楽しみね。だったら何が何でも帰ってこないと。がっつり運動して、しっかりお腹すかせて帰ってくるから覚悟しておいてよね?」
2人の笑いに、私も笑みを返してからこつんと拳をぶつけ合った。
「指の骨が折れた……」
さて……うずくまって右手を抑えるナイ神父の情けない姿は無視するとしてだ。
少し作戦を考えておきましょう。
幸か不幸か時間はある。
マヨヒガちゃんが提示した2時間というのはおそらく最長でという話。
多分1時間くらいで準備できてしまうだろう。
その間に……作戦って何するんだっけ。
今まで少人数で大量の敵を潰すとかそういうのはやったけど絡め技だったしなぁ。
今回は単独で敵陣に突入して壊滅させなきゃいけないわけだから……力業しかないわね。
まっすぐ行ってぶっとばす!
これ以上は出てこないし、お昼寝でもしてましょう。
羊が1匹美味しそう、羊が2匹美味しそう、ぐぅ……。




