拾い食いはダメだよね
「んー……」
祥子さんを抱きしめながら自分の身体を見る。
呼吸も脈もあるし、脳波は睡眠状態と変わらない……らしい。
流石に私も脳波を読み取るのは難しいのよね。
で、問題はこれをどうすればいいかということ。
触ったら戻らないかなーとか、幽体離脱した時の対処法など色々試してみたけどダメみたい。
どうやら私はアバターという肉体を纏っているからダメということらしい。
つまりこのアバターを捨てればいいんだけど、そうしたら今度はアバターが空っぽに……ん? いや、それはそれでありなのかしら。
どっちかを食べて取り込んで、というのも考えてたけどそれが一番いいかも。
「祥子さん、ちょっと倒れるかもしれないので座ってもいいですか?」
「だっこ……」
「はいはい、このまま座るだけですから」
胸元を握る祥子さんの手に力が入る。
わぁ、小さいおてて。
力も弱弱しくてかわいい。
「すー……ふぅー……」
深呼吸をして、肉体と魂の結びつきを緩める。
するとあら不思議、精神を運ぶ器として魂がするりと抜けだして、そのままアバターの肉体は意識を失ってしまった。
そのままVOTですやすやの身体に入るとあっさり結合出来て……と思ったんだけど、そうもいかなかった。
なにかが、既に私の身体の中にいる。
鬼ではない、もっと神々しくておどろおどろしい。
「どちらさま?」
「む……封じたはずだが早いな、まだ終わっていないのだが」
「不審者は排除するのが世の常。答えないならしばきたおすわよ」
「魂の状態でか? 肉体があるならば負けるかもしれんが、そのような状態で俺にかなうはずもあるまい」
大言壮語というやつかしら。
私の身体の中に存在する精神世界とでも呼ぶべき場所。
何もない空間でふわふわと漂う私と、ずっしり構える男性。
んー、たしかに分が悪いと言えばそうなんだけど勝てないとは思わない。
「いくぞ!」
どこからか剣を取り出し切りかかってきた男性。
問答無用のアッパーカットで一発KOしてやったわ。
ついでにシャドーボクシングして勝利ポーズ。
「な、なぜだ! その力、神をも超越するというのか!」
「知らないわよ。人様の身体の中で暴れようとしたから防衛本能で排除されたんじゃない?」
いや、知らないけどね。
私の身体が勝手に反応するとか滅多にないから。
そりゃまあ、いざという時のためにオートで反撃できるように感覚をとがらせることはできるけどやる意味ないのよね。
ゲームのオートモードと同じでマニュアル操作の方が精密に動けるし、効率がいいのよ。
本当に気を割かないでいい分楽って言うだけの話で。
「くそっ、せめてこいつだけでも!」
なにやら黒いもやもやを地面……まぁ私の精神世界だから正しく言うなら肉体かな?
そこに叩きつけようとしていたので阻止。
10mくらい一瞬で詰められなきゃこのご時世生き残れないのよね。
「んーと……うわっ、めんどくさい呪いねぇ。なにこれスパゲッティコード? 呪いが絡まって無茶苦茶……まともに効果を発揮するのは一部かもしれないけど解除めんどくさそうね」
「これを面倒で済ませるか化け物め……」
「絡まった毛糸玉も、ぐちゃぐちゃのイヤホンも、丁寧にほぐせばほどけるでしょ。同じようなものじゃない」
とはいえ、これをうかつにどうこうするのは危ないのでもぐもぐごくんと。
「けぷっ……うぇ、胃もたれしそう」
「喰った……?」
「うん、食べた。美味しくないわねこれ。消化するのも時間がかかるし……少しパワーが足りないわ。というわけで補給しなきゃ」
「……え?」
「いただきます」
倒れてる男性の首を掴んで、肩に噛みつく。
血を啜り、肉を喰らい、骨を毟る。
んー、なかなか美味しい。
「や、やめっ!」
「やめなーい」
もっしゃもっしゃと食べて、死なないギリギリのところで身体から蹴りだした。
殺すつもりはないからね。
さて、あとは元の身体に戻って起きるだけ。
「おはようございます!」
「ひぃっ」
「やだ……こわいのやだ……」
さっきの男性と、よわよわ祥子さんと、私のアバターがそこにいた。
……また面倒くさい事が起こりそう。
人間に友好的で、ニャル様と敵対関係の神様の部下。
広義的には天使でいいよね。
本来の見た目が邪悪なだけで今は人間の姿してるから。




