また何かのプロローグを潰した女
「悪魔王様! 前方に火の手です!」
「轢き潰しなさい。あと今は船長とお呼び」
「アイアイマム!」
操舵の必要ない陸上戦艦、それに乗ったまま移動をしている私達は荒野を爆走していた。
いやぁ、一面の糞茶色な景色はつまらないわね。
「おいこらまて!」
「戦艦は急に止まれないのよ」
馬車のように何かを感じることもなく炎の上を通り過ぎる。
よく見えなかったということにしておきましょう、あの旅人らしき女性二人と悪漢数人の姿はね。
「くっ……我が領民が……」
「安心しなさいな。あれ外様だから」
「なんだと? 知っていたのか?」
「え? 知らないけど?」
「貴様……」
「いい、大を救うために小を切り捨てるのは上に立つ者の責務よ。私はこの船に乗っている彼らと貴方を守るためにあの二人を犠牲にした。悪漢をどうにかしようとしている間に船を乗っ取られたら元も子もないわ」
建前って大事だと思うのよね。
「む……それは……」
「それにね、見たところあの女性二人も普通じゃないわ。少なくとも善良とは言い難い」
キルログにね、賞金額が載るようになったの。
そしたら悪漢全員合わせた金額よりも女性二人の方が多い。
具体的に言うなら桁が二つ違った。
ちなみに悪漢も女性も全員プレイヤーだったわ。
仲間割れか、あるいは賞金目当ての戦闘か……どちらにせよ私は懐が潤って嬉しい。
領主様はやばい人達が一掃されてうれしい。
WIN-WINの関係ってやつね。
「しかし紳士としては……」
「ならなぜ私相手に爆弾持ってきた」
「君は殺すべき対象だから。できる事なら今すぐにでもその首を落としてやりたいよ」
「さすがに死ぬから勘弁してほしいわ。肝臓くらいならあげるけど」
脇腹に手刀、引っ張り出したモツを差し出すと首を振って断られてしまった。
仕方ないので元の場所に置いておこう。
「しかし……奇妙ね」
「なにがだ?」
「こっちの話よ、ひとり言みたいなものだから」
うん、ひとり言なのだ。
さっきから妙に静かなのである。
化けオンの話ではなく、配信の話だ。
コメントが全く流れない。
間違いなく配信は続いているし、視聴者もいる。
だというのにコメントが一つも流れないのだ。
あれほど私に辛辣だったリスナーが突如として消えた、ナイ神父も含めてである。
「うーん……おかしいなぁ」
メールチェックなどもしてみるが連絡はない。
そして最高におかしいのが、祥子さんに適当なメールを送ってみたが反応がない事だ。
「しばらく、ここを任せていいかしら。私は確かめたいことがあるの」
「構わないが……次に同じようなことがあれば僕は止めるぞ」
「どうぞご自由に。それで死んだらあなたの責任、私は責任取らないからね」
そう言ってメニュー画面に手を伸ばした瞬間だった。
バチッと何かに弾かれるようにして腕がはねた。
ログアウトボタンに指を近づけられない。
……なにこれ、運営の嫌がらせ?
神々によって世界を正常にするべく異端者である彼女の動きを封じるべくログアウトを封印され、そしてゲームに閉じ込められた刹那の行動や如何に!
次回、テレポートって便利よね。
お楽しみに。
MMOジャンルにいたい作者vs自由気ままな刹那さん




