刹那さんの存在>利益≧被害
「さて、改めて料理を用意したのだが……なぜこうなった?」
「なぜって、量が少ないから」
『それはない』
『料理が消えた』
『スロー再生したらしっかりナイフとフォーク使ってるのが頭おかしい』
出された料理を普通に食べただけなんだけど、なんか驚かれた。
ぱっとみ3㎏くらいだったかしら、かなり少なめだから驚いたわ。
「……追加を持ってこさせよう」
「いえ、結構よ」
美味しかったんだけど、普通の料理で少しがっかりしたわ。
お刺身に丼、焼き魚にといたって普通。
お醤油やワサビがあったことにびっくりしたけどそれだけ。
どうあがいても食べなれた料理でしかないのよね……しかも祥子さんの手作りの方が美味しいというおまけつき。
私は暴食を認めたし、たくさん食べる事を悪いとは思わない。
けど、自分の好みじゃない料理を食べるだけというのは違うと思った。
『暴食があれだけで……?』
『まて、暴食って書き込める!』
『こいつ完全に開き直りやがった!』
『まーた修正プログラム作らなきゃ……』
『アップデートパッチ作らなきゃ……』
なんかコメント欄が社会の闇を見せてるけど気にしない。
他人の不幸は蜜の味というけど、それを味わう趣味もないのよ。
「それで、お客さんってのはどこから? 化け物大陸? 英雄大陸?」
「地獄だ」
「……悪魔と鬼でも出てきた?」
「うむ、侵略の意図はなくただ単純に移住先を求めてのことらしい。どうにも地獄のとある領域で人口飽和を起こしたとか言っていたが……」
「とある領域?」
「暴食の悪魔王、ベルゼブブの領域だ」
「ゴフッ!」
食後のお茶を飲んでて思わず吹き出してしまった。
……そっかー、色々任せてたけど人口飽和かぁ。
「理由とかは聞いた?」
「それがだな……おかしなことに暴食領域は地獄の中でも安全な土地だという。民がすすんで働き、領主代行を名乗る者も勤勉であり、他の種であろうとも迎え入れていた。結果的に許容量の限界を超えたという。地獄でそのようなことがあるわけないというのにな」
「はは、は……そうよねー」
「というわけで、彼らにお帰り願いたいのだが君の立場からも申し入れてくれるか?」
「え? 帰らせるの?」
地獄から来た、というのはちょっと意外だったけどよく考えればそうか。
英雄大陸のプレイヤーは純粋にレベル不足で海を越えられる力はない。
たしかに血気盛んだけど、もともとのポテンシャルが低いアバターを使っているからゴブリン相手でも苦戦する。
まだしばらく時間はかかるでしょうし、無茶な冒険をするだけのお金もないでしょ。
逆にそれだけのお金がある人は立場もあるから海に出る事なんてできないしね。
化け物大陸のプレイヤーは真っ当な手段じゃないと海を渡れない。
調べた限り船の数が限られていて、お金もレベルも十分だけど運がないから船の抽選に落ちたり、海上でどでかいモンスターに襲われたりしてなかなか大変らしい。
それを解消したのがゲリさんのギルドだけど、主要メンバーは英雄大陸でタクシーやっているから後進はまだ海を渡るのが難しいとか。
ただそこは先輩タクシーたちがキャリーすることで徐々に英雄大陸にいるメンバーと、化け物大陸にいるメンバーを入れ替えたりしているらしい。
最近だと低レベルの飛行モンスターと英雄のパーティなんかも作って、効果的なレベリングをしているとか。
結果的に英雄大陸でゲリさんは不動の地位を得たと言っていた。
その代わり責任を背負うことになって、自由に遊べる時間が減ったと言っていたけど……ゲーム内でもワーカーホリックなのかしら。
今度栄養ドリンクでも送ってあげよう、リアルで。
化けオン運営とナイ神父が協力して「720時間寝なくても大丈夫!」がキャッチフレーズのエナジードリンク作ったらしいから。
それを濃縮して作った栄養ドリンクもあるとかで、飲んだらバイアグラ以上の効果とカフェインの数千倍の不眠効果を発揮するらしい。
副作用は怖くて聞いてない。
「地獄の悪魔どもを受け入れるわけにもいかんだろう」
おっと、忘れてた。
「帰らせたら今度は侵略してくるかもしれないから一時受け入れの後他の大陸に連れていってあげたら? それなら協力関係くらいは築けるとおもうわよ」
「奴らと協力? 利益にならんな」
「死んだらその肉体を貰えばいいじゃない。ロストアイテムの強化素材とかになるかもよ」
「……これも宗主様に相談か」
この人も苦労人みたいね。
可愛そうに。
この度、化け物になろうオンラインは皆様の応援のおかげで書籍化したいということをご報告させていただきます。
したいという願望です。
願 望 で す 。




