ロード・食メロイ2世
「指名手配したとして、君はどうするつもりかな?」
「賞金稼ぎや衛兵をぶちのめして旅をする。私の目的のために」
「目的?」
「美味しいご飯を食べる事! 知らない料理とか、そういうのいっぱい食べたい!」
「……そのためなら人殺しもすると?」
「古今東西、戦争の歴史は食事の歴史よ?」
まぁ実際は宗教とか領土とか資源とか、そういう大きな枠組みがあるけどね。
その中にはご飯に関する歴史も混ざっていたりするというだけのこと。
どれも「食料」がファクターになっていることが多いから。
宗教戦争に関してはまぁ……特定の動物を食べてはいけないという戒律に対して喧嘩を売った結果とかそう言うのがあるか無いかという話だけど。
「なるほど、つまりこれは我々と君との間で戦争をするということか……」
「そちらが邪魔をするならね。穏便に済むならそれに越したことはないけど」
「済むと、思っているのか?」
あら怖い、目つきがまた暗殺者のそれになったわ。
思わず笑みが漏れてしまう。
「何がおかしい」
「いえ、随分と物騒な目つきをしていたから。本気で戦う気ならまぁいいわよ。でもそれができるだけの余力がある?」
「なんだと」
「見知らぬダンピール」
私の言葉にピクリと反応を示す。
わかりやすいわね、統一国家の弊害かしら。
敵は外にあらず、無能な味方こそが敵であるという環境にいたからこそ反応の隠し方が雑だ。
「魔の者、外なる英雄、いろんな呼び方があるけど……今、この大陸にもその手の物が現れた。だから私も来た」
「あれの同類だと?」
「もっと古くから存在するね。私は化け物、純粋な化け物でありキメラ。そして魔の者と呼ばれる外界の存在。この大陸に現れたやつらの同胞とも言っていい存在よ」
「ならば……奴らを喰うために来たのか?」
「半分正解。混ざりものの味も気になるけど、さっき言った通り美味しいご飯を食べに来たの。どちらかというとダンピールを食べるのは物のついでね」
「殺しがついでと来たか……危険だな」
「今更」
既に艦隊を退けて、船を一隻奪っている相手に何をいまさら。
そもそも殺し合い寸前のところで踏みとどまっているんだから。
「面白くなければすぐに出ていくし、ご飯食べたらさよならよ。問題ある? 礼儀正しいお客様とでも思っておきなさい」
「その割には押し入り強盗のような態度だったが?」
「私はね、一見さんお断りのお店に行くときはアポを取るのよ。でも店長の選り好みで帰れという店には意地でも入る。そういう客よ」
なお迷惑だからやめなさいと祥子さんに怒られてからはやってない。
だってさあ……ラーメン屋さんに行って、ラーメン出てくるまでに高菜とかザーサイつまんでたら「味がわからなくなるだろ」って言って追い出されそうになったのよ。
抵抗して、材料も配合比率も全部言い当てて向こうが泣いて謝るまでがっつり食べたわ。
そういうお店相手ならいくらでも戦うつもりだもの。
まぁ、そのお店は比率を少し変えた方がいいって言ったら追い出されて出禁にされちゃったけどね。
あれが店主のこだわりだったのなら悪い事をしたわ。
「迷惑極まりない、と言いたいが……」
「その時は無礼千万とお答えするわ」
「はっ、そうか。ではこちらは正規の手順で君を迎え入れる。ただし問題を起こしたら……」
「どうする?」
「この大陸諸共塵となってもらう」
「それは困るわね……わかった、極力問題は起こさない。ただし売られた喧嘩は買うわよ?」
「構わない。なにも無抵抗主義を貫けとは言わない」
「そう、ならその手続きをよろしく。王様にでも連絡するの?」
「あぁ、宗主様に話をつけて君のことを賓客として受け入れ、そしてこちらの監視の目のもと行動を制限させてもらう」
「ま、妥協点としてはそんなところか……交渉成立ね」
「そうだな」
がっちりと握手をして、互いに目を合わせる。
これ以上の争いは無益だし、喧嘩するにしても意味がないからね。
なら協調路線で妥協して、お互いに満足して私が帰るのを待つ、それで十分でしょ。
刹那さん「1世はとーてつさん」
とーてつ「どーも、出番のない男です」




