ストッパーは必要だよね
「そこまでだよ」
まさに、一色触発のところで静止の声がかかった。
危ない危ない、思いっきり踏み込んでダッシュする前だからよかった。
「あなたは?」
「んー、外の人になんて言えばいいのかな。領主で通じる?」
長身瘦躯というのがふさわしい男性。
顔立ちは整っているけど……纏ってる雰囲気が尋常じゃない。
なんだろう、刀君と羽磨君を合わせた感じの人だ。
つまり絶対強者の貫禄。
「えぇ、この港町近辺の親玉であってるかしら」
「そうそう。その領主様が命令するよ。兵士諸君は下がって避難誘導、そこの化け物のお嬢さんは……しばらく大人しくしていてもらえると嬉しいかな」
お嬢さんねぇ……そういう言い方されるのは久しいわね。
マドモアゼルとか、セニョリータなんて呼び方でナンパしてくる人は結構見かけたから今更照れたりしないけどさ。
海外のナンパは面倒くさいのよね、芝居がかってて。
口笛吹いてくるくらいなら可愛いもので、なんか唐突に始まるお芝居みたいなのまで。
スルーして屋根の上走って逃げるのが一番って理解するまであしらうのが大変だった。
「お忙しいであろう領主様がどうしてこんなところに?」
「お忙しくなるからこんな所に住まわされてるんだよ。君みたいな招かれざる客が来た時のためにね」
「普段はお帰り願うんでしょ? さもなくば魚のえさかしら」
「それができなかった時の生贄だねぇ」
うそばっかり……生贄とか言ってるけど、この人殺す気満々ね。
殺気は隠せているけど懐にある物騒なものの匂いは隠せてないわ。
「爆弾抱えてよく言うわ」
「……気付いていたのか?」
さっきまでの作り笑いが消えて真顔になる。
おぉこわい。
ナンパ師とも思える軽薄な表情が一変、殺し屋のそれだわ。
「匂いでね。特別製なのよ私の鼻って。この距離なら汗の臭いで嘘もわかるし、懐の火薬の匂いもばっちり。なんならその中に仕込まれた糞尿に漬けて錆びさせた釘の匂いもね」
かなり殺意の高い爆弾よねぇ。
釘一つかすめてもアウト、掴もうとしても錆のせいで指先くらいは怪我をする、それが雨のように降り注ぐとなれば普通は避けられないし逃げられないでしょ。
しかも友好的で、軽薄な男がうかつに近寄ってきたとあればなおさら警戒しろというのは難しい。
所詮はゲームだという驕りが出てしまっても文句は言えないでしょ。
「そうか……できれば穏便に済ませたかったんだがな」
「穏便に済ませるってこっちを殺すってこと? それともお話し合い? 後者ならいくらでも受けて立つけど」
重い沈黙が流れた。
どうしよう、今ぶん殴りにかかるのは得策じゃないわよね。
「ちょっと、誰かいい案ない?」
『ねーよ』
『お前が始めた物語だろ』
『ネゴシエーションの才能皆無だな』
『今までネゴシエーション(物理)だったから仕方ないね』
『諦めて殺されろ』
くっ、私の視聴者は人の心がない。
「ちなみに聞いておきたいんだが」
「なにかしら?」
「話し合いに応じてくれるということは戦意や敵意はないと見ていいか?」
「うん、襲われたから応戦しただけで戦う気はないわよ。船は戦利品としてもらうけどそこに文句があるというなら殴り合いになるけど」
「……いいよ、降参。僕の負けだ。君にはどうやっても勝てなさそうだからね。その船一隻くらいならあげるから見逃してよ」
「見逃してもらうのはこっちだけど?」
「だとしても、僕たちの生殺与奪権を握っているのは君だろう?」
「まぁ……やろうと思えば?」
「じゃあやらないでほしいかな。そのためなら何でもするからさ」
「ん? 今なんでもって言った?」
「え?」
「じゃあご飯! 美味しいご飯食べさせてくれたら全部チャラ! その後この大陸というか国を自由に歩き回れる権利ちょうだい! その後は指名手配なりなんなり好きにしていいから!」
ま、大手を振って歩けるなら指名手配くらいなんのそのよ。
……そういえば辰兄さん元気にしてるかしら。
今はどこでマフィアと政治家に追いかけられてるのかなぁ。
ガンエボ面白いけど、FPS苦手な私はニュータイプにはなれない……。
バトルアライアンスならばニュータイプ顔負けの動きで切るのに。




