マッチポンプ
「いやぁ、助かったべ。まさか娘っ子が一人でゴブリンを殲滅しちまうとはなぁ」
「んだぁ、それだけじゃなくあの壊れた船まで直しちまうなんざすげぇもんだべ」
「しっかし立派な船だぁ。これならリヴァイアサンに会っても逃げられるだべさ」
一応報告しておこうと思ってさっきの漁師さん達に話に行ったら現場検証ということになった。
まぁ食材貰う約束だったからね、それでせっかくだから船貰っちゃって直しちゃったって話したけど、問題ないだろうとのこと。
もともとお貴族様が使っていたらしいんだけど、少し前にその人達が乗っていたであろう馬車の残骸と人骨とドレスが見つかったとかなんとか。
相当強いモンスターに襲われたんじゃないかって話が出てて、そうこうしているうちに嵐が来たらしい。
漁師たちの船はちゃんと対策したんだけど、お貴族様の船に勝手に触ることもできず、さらにお貴族様の部下たちはといえば戦争から逃げるためにこの街を離れていたから野ざらしになっていたらしい。
結果として嵐直撃、船流される、そのまま大破して漂流した後に海流の影響で漂着したとのこと。
ぼろぼろでわからなかったけど家紋とか入ってたらしい。
ぜーんぶ私が作ったキメラに置き換えてしまったからそんなものはとっくに消えてるし、誰が何と言おうとテセウス号君は私の船だからね。
もし売れとか言ってきたら盛大に自爆させてやる。
冗談でキメラに自爆回路仕込めないかなーとかやってたらできたのよね、これが。
まぁ……港で爆発させたらゲリさんの国巻き込むんじゃないかなってくらいの威力だとわかったから封印決定。
船長室にあるガラス張りのスイッチを叩くと自爆します。
「それで、約束の食料だけど」
「あぁ、魚ばっかりだがええかな?」
「むしろ嬉しいわ。野菜も少しでいいからほしいんだけど……あ、後お塩」
「塩は山ほどあるが野菜は難しいべな、この辺りは塩田ばかりで普通の作物なんざつくっとらんけ」
「じゃあお塩だけください」
「んだ、樽5つでええか?」
「十分よ、ありがとう」
「んじゃおめら! しっかり運んでやるべ!」
「おうよ!」
リーダー格の漁師さんが合図を出して、それに合わせて走り去っていくマッチョマンたち。
やっぱりこの国はいいわね……そういえばこの港も戦争の原因の一つだっけ。
だとすると今後戦争の火種になり続けるわけで、しかも海賊なんかの心配もあるわけよね……。
「ねぇ、野菜をまけてもらうかわりに労働力と戦力を置いていくって言うのはダメかしら。物々交換って形で」
「金じゃなくてか?」
「お金はいずれなくなるし分配が面倒でしょ。あなた達も仲介料とか色々吹っ掛けそうだし。だったら最初から物々交換にした方があとくされなさそうだから」
「ほほう、んで? 労働力と戦力ってのはなんだべ?」
「さっき倒したゴブリンをね、こうしてこねこねして」
錬金術でゴブリンのキメラを作る。
もちろん最低限の戦闘力しかないけど、普通のゴブリンくらいなら余裕で蹴散らせるパワーを秘めている。
黄金林檎で強化したからね、ちょっともったいないかなとも思ったけど出し惜しみするほどでもない。
あれ、普通に食べても栄養にならないみたいだから……。
いくら食べてもお腹がいっぱいにならない奇妙な果実だからね、だったらこうして有効活用したらいい。
「おめ! それゴブリンでねえか!」
「さっき倒したやつね。私錬金術師だからこうやってこねこねして、疑似的な生命体を作れるのよ。ちなみにあの船もキメラだから同類」
「はえぇ、そげなお人があんな危険なところに旅をするたぁなぁ……」
「危険だろうと面白そうなら行くのよ。それが私達の役目だからね……っと、できた!」
3ダースのゴブリンキメラ。
奇麗に倒したから素材も潤沢で、結果的にいっぱい作れた。
これだけいれば並大抵の軍隊や海賊、野生のモンスターは怖くないでしょ。
ついでに船の上での厳しい仕事もこなせるだけのパワーはある。
普通のゴブリンは子供くらいの背丈だけど、この子達は大人並のサイズに作ったからね。
動力源は太陽光でエコだし!
「基本的にご飯とかはいらないけど、たまに何かあげると喜ぶわよ。あとはそうね……命令に関しては基本的に聞いてくれるけど、仲がいい人のことを一番聞くように設定してあるから。もちろん最上級命令権を持っているのは私だけどね」
この命令権って結構重要なのよね。
適当に作ってこれ忘れて、完成したばかりのキメラに食われるという事故は結構多いらしい。
命令権を付与しない場合は最初から魂とも呼ぶべき回路を組み込まないとかで、それを応用してルシファー作った。
「これだけくれるって言うなら野菜も樽5つ分持っていくといいべ。金はおらが払っちゃる」
「そう? なら当面の命令権はあなたに与えておくわね。お願いという形なら他の人も聞いてくれるから」
「ありがたい」
がっしりと握手を交わして、テセウス号に命令して港に停泊してもらってから食料を積み込んでもらった。
私はその間海岸でドラゴンのお肉を燻製してたわ。
自分の蔦を引きちぎって乾燥させてチップにしてね。
コメント欄
『ひでぇマッチポンプを見た』
『なんならゴブリンキメラもマッチポンプ』
『はい低評価』




