ケミカルクッキング
さて、身辺も落ち着いたところで久しぶりに化けオンにログインできるわ。
前にログアウトした時は拳闘奴隷だったナンバーズを超強化して、蛮族の国潰して難民を魔法学校に誘導。
あとエルフの人達とかがそっちになだれ込んでくるってところだったわね。
たしかルシファーの素体となるキメラを作るって約束してたけどそれっきりだったはず。
妲己とはお茶会したし、まぁそっちはいいでしょ。
というわけでログイン!
「久しぶりの空気だわ……」
眼前に広がるのは保健室。
魔法学校は寮制なんだけど、私が宿泊する部屋は難民に割り当てたということでこっちで眠らせてもらったんだ。
硬いベッドだから少し疲れた感じがするけど……うん、まぁなんとかなるでしょ。
このまま挨拶に行ってもいいけど、約束すっぽかしてた手前手ぶらというのも少し気が引けるから今のうちにキメラを用意するとしますか。
まずベルゼブブを召喚して素材をはぎ取り、次に人間素材や悪魔素材、ゲリさんの素材を黄金林檎の果汁に漬けて放置。
……美味しそうだけどつまみ食いしたら足りなくなりそうね。
そこにイベント中に手に入れたエリクサーとか、蛮族の国で保管されていたあれこれをぶち込んで煮込むこと数分。
なんかアムリタってお酒があったけどこれもぶち込んだ。
舐めたけどあまり美味しくなかったのよね……。
そうしてできた素材を組み合わせて、人間に近い形状にしつつも腕や羽を隠す形で作って倉庫で肥やしになっていたロストシリーズとか悪魔王シリーズとか、そういう適当な装備を着せて完成。
うむ、どこからどう見ても可愛らしい女の子だ!
……趣味全開で作ったけど怒られないかしら。
いや、どうせ作るならゴリゴリマッチョマンよりも女の子の方がいいかなって。
それにベルゼブブも人間形態は女の子だったからね。
「こんちゃー、キメラ素体お持ちしましたー」
考えるだけ無駄と思ったので素体抱えながら先生の部屋に突撃した。
ドアを蹴破って入ったけど反省はしていない。
「ドアノブだけを壊すとは、成長したな」
「へへへー、これでも日々修業は欠かしてませんからね」
「そうか、なら次は普通にあけてくれ。壊れるのは仕方ないとしても会話が外に漏れるのは面倒でな。して、それが?」
「えぇ、ご注文の品です」
「ふむ……随分可愛らしい外見にしたな。何か意図はあるのか?」
「まず見た目で油断を誘えるというのが一つ。次にこの見た目で悪魔王と思う人がいないだろうというのが一つ。なにより趣味です」
「そうか……趣味か……」
建前二つ並べたけど、これは怒られるパターン?
少し渋い顔しているけど……。
「実に良い趣味だ。メイドとして使っているホムンクルスがいるのだがそちらの設計も頼みたいくらいだな」
あ、褒められた。
「それになるほど、これならば誰もルシファーとは思うまい。カモフラージュとしてもよい働きをしてくれそうだ。実に助かる」
「喜んでもらえたなら何より。で、そちらは準備できていますか?」
「無論だ。老害共からルシファーを奪いこの身に宿した。流石にしばらく寝込んでしまったが、いつでも移植は可能だ」
無茶をする……。
ただの人間がルシファーなんて大物を取り込むというだけでも危険だというのに……それを避けるために分割してという形にしていたはずなんだけどなぁ。
「安心しろ、これでも全体の半分にも満たない。残りはまだ封印されたままだ」
「あら、そうなの?」
「あぁ、最初から上手くいくとは思っていないからな。君の腕を疑うわけではないが実験に失敗はつきもの。まずは3割程度の移植から始めて徐々に数字を増やしていく算段だ」
「ふーん、まぁこっちは気にしないけどそういうことならお任せするわ」
「うむ、ではやるぞ」
そういうと先生は右腕を突き出し、そして切り落とした。
血があふれ出るかと思いきやそんなことはなく、まるでとかげが尻尾を切ったかのようにするりと落ちて、そして地面の上でビタンビタンとのたうち回る。
しばらくすると素体に気づいたかのように、そちらに向かって指を器用に使って移動し始めた。
おぉ……面白い光景ね。
こんなの10年前にお父さんが持ち帰ったカッパの手を見た時以来だわ。
「始まるぞ」
先生の言葉と共に腕が素体の口の中に入り込み、そして喉が大きく動いたかと思うと素体の目がかっと開いた。
「我! 復活!」
……やかましい。
二日酔いで死にそうです。
下戸なのに何故吞んだ私。




