話はニャル経由
「さて、用事も済んだしそろそろ……」
特訓を終えて居住スペースに戻ってから、そんなことを言いながらナコトさんは荷物を片付け始めた。
「え? 帰っちゃうんですか?」
「ちがうよー。せっかくだから観光しようかなって。こっちのインスマスとかも見ておきたいからさ」
「あぁ、なるほど……」
「せっかくだから聞いておくけど、おすすめの観光スポットとかある?」
「そうですねぇ、日本なら新設東京タワー跡地とか?」
「跡地」
「えぇ、以前ちょっとした出来事が原因で輪切りにしまして。その後建て直したんですが、ちょっと傾けちゃったので撤去されて再建予定地となってます」
「それ、見て面白いのかな……」
「たぶんそんなに」
「だよねぇ、他には?」
「浅草はいいですよ、ご飯が美味しい」
雷門の近くにあったお店で食べたお饅頭は美味しかったなぁ……。
食い倒れ旅、またやってみたいんだけど祥子さんに止められてるからできないんだよなぁ……。
曰く、倒れるのはせっちゃんじゃなくてお店だと言われてしまってね。
泣く泣く食い倒れは基本禁止となった。
たまに許可されることもあるけど、大体国外なのよね。
「それじゃあ浅草行って、東京中心に回ってから沖縄と北海道行って、次は海外かな。世界一周としゃれこむのもいいかもね」
「いいですね、私は最近旅行行けてないので」
「そうなの?」
「んーと、表向きはジャーナリストということになっているんですけどね。それでも本職が公安職員ということでうかつな旅行は禁止されているんです。もちろん表向きを理由に許可とれば問題なく行けるんですが……お仕事が減ってるんです」
「ほほう、そりゃ大変だ。できれば連れていってあげたいけど、今回はお土産で我慢してね? 旅先から配送するから、関税のかからないギリギリのラインで」
「ナコトさん大好き!」
迷わず抱き着いたわ。
あぁ、この人いい人だ……角がおっぱいに刺さってちょっと痛いけど。
……ん? 角?
「そういえばナコトさん、その角とかどうするんですか? パスポートとかはなんか貰ってましたけど」
「あぁこれ? 刹那ちゃんが封印してもらったのと同じ要領だよ。私の場合自力でそれを強化しつつ、私の個性を抑え込む形かな」
「ということは今も封印されていると?」
「まぁね。だから封印解いたら凄いよ? ナコトさんがスーパーナコトさんになるよ?」
「なんか、小学生のネーミングセンスですね」
「はっはっはっ、ゲームの本からギルドや街の名前決める人が言っていいセリフじゃないね」
それを言われると弱い。
私はネーミングセンスが皆無だからなぁ……。
正直、すっごい名前つけてとか言われても何もできないと思うし。
「まあこの角くらいならこうして、こうすれば」
前髪をちょちょいといじって、ヘアピンなどを駆使したナコトさんは見事に角を隠しきってみせた。
外見からじゃわからない……なるほど、角も小さいとこういう風に隠せるのか。
私の額に生えてきたのは大きかったからなぁ……。
「あるいはこうかな」
そういうやいなや、ぱきんと角を折ってしまった。
「ちょっ!」
「うん、相変わらず結構痛いね」
「だ、大丈夫なんですか⁉」
角を切り落としたことがある身としては心配せざるを得ない。
いや、あれ相当痛いのよ。
「だいじょーぶ。このくらいならよくやるから」
「そうは言いますけど……」
「それに遅かれ早かれ一回は折るつもりだったからね。色々準備してくれた公安にお土産ってことで渡しておいてね」
そう言ってもう片方の角もへし折ったナコトさんから、2本の折れた角を渡されて右往左往する。
そうしているうちに荷物を担いで出ていってしまったあたり、やはり相当な自由人なんだなぁ……。
うん、嵐か雲か、掴みどころがなく消えていったわ。




