うつぶせ寝
とりあえず私の血が混ざったお肉は使えないので、マヨヒガちゃんに頼んで燻製にしてもらった。
こっそり食べる用としてね、他の人が食べないように今ある最下層に安置してもらう。
今までもちょっと人を選びそうなのは最下層の貯蔵庫においてもらってたから。
てなわけで、馬とか色々狩りなおして夕食は豪勢なものになったわけだけど……あ、ナコトさんが食べたがったお寿司とか天ぷらも用意したわよ。
それとは別にお肉いっぱい並べたんだけどね、しっかり運動してたっぷり食べた後はもちろんお風呂!
それもいつものお風呂じゃない、地下87階に作った天然の温泉だ。
源泉そのままの場所に石と岩で足場と囲いを作っただけの簡素なもので、温度が高すぎて普段は入らないんだけど、このお湯を普段使ってるお風呂にも繋いでいるから肩こりや腰痛にはよく効くのよ。
祥子さんと一会ちゃんからはかなり好評ね。
あの二人ワーカーホリックだし、最近美容も気にしているみたいだから。
だからまぁ、ここに直接来るのは私と縁ちゃんくらい。
あの子はお風呂が好きじゃないから連れてきて脱がせて放り込むなら広い方が楽だからねぇ。
と、そんな話をしたところナコトさんが興味を持った。
ルルイエさんは120度のお湯に浸かるのは無理と言っていつものお風呂に行ったけど……大丈夫かしら。
うずめさんとフレイヤさんが一緒に入るらしいけど、あの二人お酒持ち込んでたからなぁ……。
酔うとセクハラが凄いことになる二人だから不安なのよね。
「うーん、大丈夫かなぁ……」
「どしたの? 刹那ちゃん」
「いえ、ルルイエさん大丈夫かなって。あの二人酒癖が良くないので」
「あー大丈夫大丈夫、ルーちゃんも大概だし」
「と、言いますと?」
もしやルルイエさんも酒乱の気があるのか?
だとしたらお夕飯はちょっとだけにしておいてよかったわ。
地下栽培の密造……ゲフンゲフン、お米のジュース。
「あの子女の子相手だとよくセクハラするんだ。クリスちゃんもバイトの入社試験の時おっぱい揉まれてたから」
「はぁ……こんな脂肪の塊揉んで何が楽しいんですかね、本人も立派なの持ってるのに」
「ははは、次はないよ?」
「え? ナコトさん身長だけじゃなくておっぱいも気にしてあだだだだだ!」
「捥ぐ」
「捥いでもいいけどお湯に血が混ざるのはよくないので外でお願いします!」
「……張り合いないなぁ」
あいたたた……鷲掴みにされたけど手形がアザになっちゃってる。
まったくどんな握力しているんだか。
「でもナコトさんみたいな人が好きって人も結構いると思いますよ」
「そりゃいるだろうね。世の中蓼食う虫も好き好きって言うし、ロリコンなんて珍しくもない。そりゃもう変態が編隊を組んで突撃してくるくらいにはモテるよ?」
「自慢しちゃうんですね……」
「いんにゃ、苦労話。刹那ちゃんだって好きでもない男に言い寄られて囲まれてとなると気分はよくないでしょ?」
「あー、告白ハラスメントとか言うやつですか? 2000年代に流行ったって聞いてます」
「そういうのじゃなくて純粋な犯罪者かな。ちょっと背が低くて大人しくしてると図に乗る輩が多くてさ。そういう時は相手の身長を減らしてあげるんだ」
……なるほど、それは困るだろうなぁ。
たしかに私も囲まれるのは面倒くさい。
ナンパされた時そういう感じになったことはあるけど、たしかに邪魔なだけだった。
一般人相手に本気を出すわけにもいかず、とりあえず膝の皿割って逃げたけど……一時期ニュースになって気が付いたら都市伝説になってたわ。
妖怪皿割りとか言うド直球のネーミングで。
両足を砕かれて男性に乱暴された女性の怨念が夜な夜な徘徊してナンパ男の膝を砕いて回るとか言う、すごく物騒な都市伝説に。
あれからもうすぐ15年……懐かしいなぁ。
まだその都市伝説残ってるのは不思議だけど。
「ナンパは面倒ですよね」
「そうそう、私に至ってはほら、人がいいからね。お人よしのナコトさんと名高いだけあって顔も知れてるから」
「あー、私もです。ジャーナリストやってるのでテレビとかたまに出るんですけどね、そういう関係で声かけてくる人が結構いるんですよ。おかげで逃げる時も膝蹴り砕いてからじゃないと逃がしてくれなくて」
「わかるわぁ……まさかこんなところで意気投合できる相手に会えるとは思わなかったよ。鬼のよしみだけじゃなくて盃を酌み交わしたいくらいだね」
「ならば用意しましょう」
よろしく、とお願いするとマヨヒガちゃんがお酒を用意してくれた。
うむ、美味しいお酒だ。
苦労を分かち合える仲間との出会いに乾杯ね!
なお、話が弾みすぎて飲みすぎてしまった……久しぶりにお風呂の中で寝ちゃったわ。
朝起こしに来てくれたうずめさんに感謝ね。
一緒に寝てしまったナコトさんも引っ張り出してくれたし、いやー助かったわ。




