ルルイエ、喰われそう
「……地下?」
「地下」
「広くない?」
「狭い階層、10㎞四方の部屋だから」
「明るい……」
「人口太陽で昼夜を再現しているらしいから」
ルルイエさんが唖然とした様子で周囲を見渡している。
そんなに見ても遺伝子改造して作った生物しかいないんだけどなぁ……。
あ、作ったのはマヨヒガちゃんであって私じゃないからセーフ。
まだ人権とかあれこれ獲得していないから世界のルールである人工生命体の創造禁止には触れてないからセーフ。
ナコトさんはきょろきょろと楽し気に周囲をうかがってる。
「いいねいいね! このピリピリした雰囲気! すっごい胸躍る!」
「踊るほど無いごふぁっ!」
余計な事を言ったルルイエさんがボディブローをくらって崩れ落ちる。
凄い……無駄な力を使わず確実に内臓にダメージを与える一撃だ。
相手が吹っ飛ぶようなこともなく、的確に衝撃を全てぶつけている。
「ここってどんなところなの?」
「んー、長くなりますけど聞きますか?」
「ぜひ知りたいな。私も色々面白いものは見てきたけど、これほど不思議なものはなかなかないから」
「そうですね、まずこの家の成り立ちなんですが……」
まずマヨヒガちゃんが生まれた経緯について話した。
私と縁ちゃんの細胞が家を建てる時に混ざったこと、その際に使用された技術が未完成故に人体も素材も関係なく粒子にしてしまう光線であること。
それを再現しようとして失敗した事は伏せつつ、危険な武器として流用できるから封印されていることも含めて、マヨヒガちゃんの自我が生まれるまでについて語った。
「なるほどなるほど、肉体と魂があれば必然的に足りなかった精神が宿る……その精神の出どころを追求するならインターネットかな? 不特定多数の人間による意識の集合体ともいえる架空世界、電子世界の情報を取り込んで精神の核にして自我の発芽に至った……面白いなぁ、あっちじゃそんな手間かけなくても生命くらい作り出せるからこういうのは新鮮だよ」
饒舌に語るナコトさん、なんかすごく喜んでるしいいか。
「で、そのマヨヒガちゃんがインターネットで仕入れた知識のあれこれを試したいということで勝手に地下拡張していったんです。私達もまぁいいかなで放任していて、気が付いたら把握できないくらい階層が増えてて、仕方ないのでこれ以上増やさず今ある階層を利用するという方針になりました」
ちなみに一番広い階層は東京都と同じサイズになっているらしい。
そこでは日夜ロボットを戦い合わせてデータを収集、改良してを繰り返しているらしい。
他にもスペースシャトルとかも作ってるって聞いたけど……まぁしばらく乗る機会はないかな。
その手の資格持ってないし、過去に一回運転したきりだからちょっと危ないからね。
「この階層はなんのために用意したの?」
「私の血って結構やばいらしいんですよ。マウスに食べさせたら熊を食い殺しました。それがパワーアップし続けた結果、並大抵のマウスじゃ即座に破裂してしまうらしいのでその辺の実験も兼ねてるそうです」
「ほうほう」
「マヨヒガちゃんが遺伝子改造した生命体に私の血を少し混ぜて、その個体同士をここで戦わせることでどのくらいの生存力を持っているか、繁殖力などはあるのかなどを調べるとかで」
「だから蠱毒のグルメなんて言ったんだね。ここじゃ日夜喰い合いしているわけだ」
「ですです。ちなみにここにいるのは伝承やファンタジー小説などから外見を決定した生物、また想像しうる限り危ないだろうなぁというものが闊歩してます」
「例えば?」
「ルルイエさんを今まさに襲っている巨大な蜘蛛ですね。味は蟹みたいで美味しいんですけど」
ちょっと離れたところで糸にまきとられもがいているルルイエさん。
それにじりじりと近寄る全長5mの蜘蛛、たしかタランチュラをそのまま巨大化させて、毒を凶悪にしたとか言ってたっけ。
普通のタランチュラなら麻痺毒だけど、あれは麻痺の他に麻酔作用もあるから意識が混濁して呼吸が止まって、緩やかに死んでいくとかいう危険な毒。
ルルイエさんが滅茶苦茶叫んでるけど、火の玉で応戦してる辺りまだ余裕ありそう。
「へぇ、ゲテモノは慣れてるけど刹那ちゃんの家にいるみんなはどう思ってるの? あれを食材にすること」
「概ね不評です。味がいいだけに見た目を思い出すと気分が悪くなるとかで」
「だよねー。元の形思い出さなければいいけど、見た目があれじゃあね」
「あ、ルルイエさんが糸から抜け出しましたよ」
「お、ほんとだ。こっから逆転できるかな?」
「できなきゃ今晩はルルイエさんの仇を食べる事になりますね」
「いいから加勢しろそこの二人!」
叫ぶ余裕があるなら大丈夫そうね。




