地下ダンジョン現在最下層666階
とりあえず当面の問題は片付いた。
角と刺青が消えたことで温泉も問題なし、祥子さんとの寿命差に関しては今後の医療に期待しつつ、最悪の場合無理やりにでもこの球を飲ませる。
ということで、細かい事を聞いてみた。
「ルルイエさん、この球一個丸ごと飲ませる必要あります? それとも欠片でいい?」
「か、欠片で十分! 一個丸々飲んだら本物の鬼になる!」
「ほほう、削って粉にして料理に混ぜたら?」
「鍋いっぱいのカレーに混ぜるくらいなら問題ない! 数日に分けて摂取なら副作用も少ないはず! 徐々に変質していくだけだから!」
「その封印も私の時みたいにきつい? 命の危険は?」
「じっくり前準備すればちょっとの不快感だけで済むし危なくもないから羽捥がないで!」
チッ……いい手羽が手に入るかなと思ったんだけどなぁ。
でも見たところあまり美味しそうじゃないし、やっぱり地下に行くべきかしらね。
「異世界怖い……異世界怖い……」
あ、壊れちゃった。
「ナコトさん、これどうします?」
「叩けば治るよ、斜め四十五度でビシッと」
「ふむ」
振り上げた手を、角度を綿密に計算して……。
「チェストぉ!」
「あぶねえ!」
手刀を白刃どり……この人、できる!
「チューニングされた直後でいつも以上に調子いいだろうけどね! だからって調子に乗って暴力はダメだろ!」
「え? このくらいじゃれ合いですよね」
「だよねぇ、ルーちゃんちょっと考え方飛び過ぎてない?」
「私がおかしいのか⁉ いたって普通の感性がおかしいのか⁉ 異世界はこうまで常識が違うのか!」
「暴力って言うのはこのレベルを言うんですよ」
右手にありったけの力を籠める。
もう二度とお箸を持てなくなってもいい、それほどの覚悟を決めバンプアップもして右手の筋肉を肥大化させ……。
「あれはじゃれ合いっすね! うん、冗談っすよじょーだん! 姐さんも真に受けるなんて人が悪いぜ」
おっと、実践してみせるまでもなかったわね。
それにしても冗談か、人の感情の機微を見極めるのは得意だけどすっかり騙されたわ。
私もまだまだってことね……精進しなきゃ。
「そういやクリスはどこに?」
「今お仕事中だけど、呼ぶ?」
「いんや、あいつはうちの従業員でもあるんで挨拶くらいはしておこうかなって思ったんすけどね。忙しいのを邪魔するほどでもないかなと」
「そう? そういえばお仕事は何を?」
「あー、探偵っす。迷子犬探しとか、浮気調査とか、クリスとナコトさんが絡むと話がでかくなって困ってたんすよ」
「あー、私はジャーナリストやってるけどわかるわ。クライアントや従業員の現場判断で事が大きくなりすぎるって結構あるのよね」
「わかってくれるっすか……すっげぇ苦労してきたんすよ……そりゃもう」
「私もよ……」
まぁ、私の場合現場判断で事を大きくする側だったけどね。
クライアント様はいつも高みの見物決めてるから、たまには酷い目にあえと思うけど、そこまでやると今後の仕事に差し障るから大人しく従うしかなかったのは辛かった。
まぁ打ち上げでたっぷりご馳走になったけどね!
「そんなにストレスたまってるなら気晴らしでもする? 身体を動かせば少しは発散できるかもしれないわよ」
「わたしゃ魔法使い側なんで、運動は苦手なんすよねぇ」
「じゃあちょっと暴れると言い換えましょうか。ナコトさんも、ちょっと遊びませんか?」
「んー? なんか面白そう……いこうよルーちゃん!」
「まぁ、ナコトさんがそう言うなら……」
「三人いれば晩御飯の食材用意するのも簡単だし、できるだけ奇麗に狩ってね?」
「狩る? 地下になんかいるんすか?」
「ふっふっふ、マヨヒガちゃん。エレベーターをお願い」
『はい、トイレをエレベーターに一時変換。どうぞ』
トイレのドアを開けると広々としたエレベーターの中だった。
取っ手も内側のは消えているし……うーん、流石私の娘。
気配り上手!
「じゃあ行きましょか」
「いやいやいやいや、なんすかいまの! え? 家が喋った? というかトイレがエレベーターに? え? なにこの家こわっ!」
「私の娘よ。お腹を痛めたわけじゃないけど腕が消し飛んだからとんとんかしらね」
「なにそれ怖い!」
「まぁまぁ、そう怖がるほどでもないから。それより着いたわよ。目的地の地下108階、蠱毒のグルメにね」
エレベーターのドアが開くと同時に、大量の巨大化した家畜たちが殺し合いを繰り広げる姿が目に入った。
いやぁ、今日も元気ね!
ファイルナンバーEX8:マヨヒガ
なんかよくわからない家、勝手に増改築する。
地下に広がる空間はダンジョンと呼ぶにふさわしい。
実際よくわからない生物が闊歩している。
現在自衛隊の訓練場として使用を交渉中。
最下層は666階と聞いているが明らかに人類生存可能な範囲を逸している。
また空間の広さからも地下鉄に接触しているであろう箇所もあるため、空間が変質している可能性がある。
地下で見たロボットは設計図を貰ったが、現代技術では再現不可能である。
この家だけおかしな環境になっている。
なぜ三根女史はこの家で生活して平然としていられるのか不明である。
他のEXナンバーズやG案件は例外とする。
GPSを所持した研究員が地下に突入したところGPS反応が消えたことから別空間の可能性が高い。




