暴食を認めた=開き直った
「じゃあちゃっちゃと封印しちゃいましょう」
「それがそうもいかなくてねぇ……」
「え?」
「何事も準備って必要なのよ。事今回に至っては特にね」
いろいろ覚悟を決めて10倍の生理も受け入れたところだったのに……。
「刹那ちゃんはほら、有体に言って人間辞めた口だから大掛かりなのは必要ないんだけどさ。逆に言うなら少しは準備しないといけないこともあるんだよね。まずはその手の専門家が必要」
「ほうほう。呪術とか魔術とかの部類なら永久姉……私の姉が得意ですよ。あと一度見たら大体のことできるようになる妹がいます」
「その手のプロと言っても……あー、ちょっといい言葉が思い浮かばないから先に謝っておくけどごめんね? 所詮はこの世界でのプロレベルでしょ?」
「まぁ……トップレベルですけど」
「うん、だとしても魔法とか魔術とかそういうのが未発達な世界だからね。例えるならそうだなぁ……火打石とかがメインの時代にファイアスターター作りましたレベルなのよ。その傍らで私達はライターを使って煙草に火をつける」
「つまり?」
「こっちの魔術系統はまだまだ未発達。正確に言うならロストテクノロジーだけど、正直レベルが違いすぎてまだ任せられないかなって」
「うーん?」
「戦国時代にフグ捌くようなものだと思って。現代なら資格取れれば問題ないフグでも、当時からしたらどこが危ないかとかは実験しなければ食べられなかったから」
あぁ、なるほど。
何をしたら毒になって、何をすればちゃんと対処できるのかという意味ね。
その技術が私達の世界には存在しない、既に失われてしまったということか。
「じゃあナコトさんが封印をしてくれるんですか?」
「いんにゃ、私は物理専門で魔法はさっぱりよ。ただ私も封印受けてるからそれなりに知識はあるし、知人にその手のことが得意な人もいるからすぐに呼べるの。面倒だったらニャルちゃんに頼んでもいいけど?」
「嫌です」
「だよねー、私もニャルちゃんに借り作りたくないから」
あの人は貸し借りの有無にかかわらず面倒だけど、こっちが何か借りている状態で取り立てに来ることは滅多にないから。
その代わり取り立てる時はヤクザも真っ青な暴利で取り立ててくる。
過去それで何度か国境線が消えたという話だから洒落にならないのよ。
「それじゃあその知人さんに声をかけて、封印して貰えばほぼ解決ってことでいいですか?」
「うん、まぁそうなるかな。あれは一応クリスちゃんの関係者だから遠慮は必要ないし、他の派閥に迷惑かけることもないんだよね」
「派閥とかあるんですね、なんか面倒くさそう」
「世界をまたいだところで人の本質は変わらないってことだね。実際利益があるからどこそこの派閥にいるって人もいれば、ここが比較的マシって消極的な理由な人もいる。立場上そこしかないって人だっていたし、すき好んでニャルちゃん陣営に行く狂人もいたから」
「それは間違いなく狂人ですね」
あの人の下に着くとか……あ、今私ひとのこと言えない立場だった。
で、でもそれは弱みを握られたというか、胃袋を掴まれたからであって……うん!
ナイ神父が全面的に悪いということにしておきましょう!
「これでヨシッ。しばらくしたら来るからじっくり待とうか」
「あれ、早いんですね」
「あーうん、ナコトさんは魔法とかからっきしって言ったけどその子はプロフェッショナルだからね。公安にあるエレベーター式の転移システム使わなくてもこっちに来られるんだ。本当は手続きとか必要なんだけど、そこは特権でどうにかしたから安心してね! ちょっと質の悪い病気持ってくるかもしれないけど」
「それは聞き捨てならないんですが」
「はっはっはっ、いざとなったら特効薬をこっちに送るから大丈夫! それにもしかしたら異世界から持ち込まれた不思議パワーでこっちの人類が進化するかもしれないよ!」
「それは……夢のある話ですね」
「でしょ!」
ニッコニコでろくでもないことを言い放つナコトさん。
悪い人じゃないんだけど、育て親の影響が心の深い部分で影響しているわね。
そんなことを考えた瞬間だった。
『お母さん、不審者を迎撃しました。いかがいたしますか?』
マヨヒガちゃんが話しかけてきたのだ。
モニターに出してもらうと地面に這いつくばる黒焦げの人影……その背中からは黒い羽が12枚も生えている。
……今夜は手羽先かな?
「あ、あの子が封印してくれる子だよ」
……残念、手羽先はダメか。




