飴と鞭が上手い愉悦部
まぁ寿命とか色々問題があるのはわかった。
それはもうこの際どうでもいいわ、最大の問題があるから。
「ちょ、これかなり痛いんですけど!」
「ほらほら、もっと頑張らないといつまでたっても終わらないよー」
「エンコ詰めた時よりも痛い!」
「でも生えてきてるからセーフだよね」
「そうですけど!」
角を斬るのがね、滅茶苦茶痛い。
のこぎりでぎっこぎっこやってるけど、なかなか進まないし神経の塊切ってるような感じで……思わず国家機密とか白状したくなったくらいには痛い。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ふぁいとー」
気の抜ける応援をされながら切り進める事半日、ようやく角を落とすことができた。
これでどうにか……あぁ、やっぱり血が出てるわ。
鏡を見ながらだったけど跡が残らないように根元で切ったからね、そりゃ出血くらい……んん?
「えっと……また生えてきたんですけど、さっきより立派なの」
「あぁ、言い忘れてたけど鬼の角はサメの歯並に生え変わるからね。鹿の角みたいに時期ごとに生え変わるし、折れたり割れたりしても生え変わる」
「じゃあこれ切った意味は?」
「冗談で用意した道具使って必死になってるの見てて面白かった。ごめーんね?」
……なるほど、ナイ神父が育てたというだけあって性格悪いな。
反論する気が起きないほど本心から話してくるのが質悪いし、さらに煽りともとられかねないけど辰兄さんみたいな人はもちろん、一般男性や可愛いモノ好きな一会ちゃんもころりと篭絡できそうなあざとい仕草も質が悪い。
だが私はそう簡単に揺らぐ女ではない、必殺のアイアンクローでお仕置きだ。
そう思い手を伸ばした瞬間だった。
「あ、渡すの忘れてたけどこれお土産。自家製の梅酒と梅干、それと趣味で作った乾物がいくつか」
「わーい」
貰えるものは貰っておきましょう。
うん、許したわけじゃないけど先送りにしてもいいわよね!
「ん-、しゅっぱー」
貰った梅干を一個口に放り込むと突き抜けるような酸っぱさと、塩の塊を口に放り込んだのではと思うほどの塩気に口をすぼめてしまう。
うわっ、すごっこれ、全身から汗噴き出すほど酸っぱいししょっぱいわ。
市販の梅干しとか比じゃないくらいよ。
「はいこれ」
差し出されるままに茶色い塊を口に含む。
「んっ、おいしっ」
ふわっと香る魚介のうま味、カツオだこれ。
削ってないかつお節、その欠片を口に放り込まれた。
それが先程まで食べていた梅干しの余韻と相まって深い味わいになっている。
指の爪サイズにカットされてるから削る事よりもこうして飴玉みたいに口に含むことを目的にしているのね。
しかしこの香りと味の深みはなんなのかしら……未知の味というにふさわしいわ。
今まで口にしてきた鰹節とは違った風味、うーんなにかしらこれ。
「このカツオは産地どこですか?」
「インスマスって町だよ」
「ははぁ、アメリカの?」
「いんや、同一名称の別の町。そろそろ私の出自に関してお話しするべきかなぁ?」
「出自?」
「うん、端的に言うと私異世界人」
「はぁ」
なんだそれ、どこぞの神様女子高生が求めていそうだな。
「ピンとこないのはわかるけどね、そんなもんだと思っておいてよ。私のいた世界は神様も妖怪も人間もみんな仲良く暮らしてるの。ファンタジー小説みたいに種族間の争いとかほとんどない、割と平和な世界で文明もこっちと同じくらいかな?」
「そんな世界からどうしてこっちへ?」
「クリスちゃんのお願いだったからね。彼女は……というか彼女の父親とはだいぶ長い付き合いだったから」
「へぇ……あれ? ってことはクリスちゃんって……」
「んー、鶏と卵になっちゃうな。あっちで産まれたけど出自はこっちみたいな?」
「じゃあどっちでもいいです。いい子なのに変わりはないので」
「へぇ……なるほど、クリスちゃんが気に入るだけあるね! 私も刹那ちゃんのこと、気に入ったよ! せっかくだから色々お話ししちゃおうじゃないか! あっちの国家機密とかね!」
「それ、私消されたりしません?」
ケラケラと笑うだけで何も答えてくれない、それが一番の恐怖なんだよなぁ……。
マジで常識人(当社比)なんだよ……上位層がニャル様系統なだけで。




