悪だくみ
それから引っ越しの日程を決めて、前祝に近所に新しくできた焼き肉食べ放題のお店に行った。
店長らしき人に泣きながら勘弁してくれと言われるまで食べ続けたけど、まだ入りそうだったので帰りにラーメン屋さんによってヤサイマシマシカラメマシアブラオオメニンニクヤサイメンカタメゼンマシチョモランマを食べてから解散となった。
なぜか祥子さんと、もう一人一緒に来ていた女性が青い顔していたけど……なんでだろうね。
仕事も一段落したので久しぶりにゆっくり遊べるからゲームを起動!
……ゲリさんログインしていたらちょっと狩りに行こうかなとも思ったけど、イベントの戦利品を確認しよう。
まずは新種族妖狐だけど、狐火と邪悪結界の二つは以前試した通り。
それからちょいちょい触れるときに検証したけれど聖属性弱点を一時的に対処してくれるようになるわけだから、聖水に触れても大丈夫になった。
というのも聖水は水に聖属性が付与されている状態のことを言うらしい。
つまりその原理で言うなら祝福された牛乳みたいなものや、聖なる祈りを受けたラーメンがあってもおかしくないのだ。
だから今日はそれに対する実験を行わなければいけない。
右手に持つは聖水、左手で邪悪結界の準備。
「いざ! 邪悪結界!」
左手を高く掲げて結界を発動、同時に視界の端に結界発動中のアイコンが表示されて上って消えていった。
常時映ってると邪魔だからこうやって消えるようになっているのよね。
ちなみに効果が切れた時は上から落ちてきてスーッと消えていく。
それよりもだ、この状態で試すのはこの聖水の使い方。
「では!」
覚悟を決めて聖水の瓶を口元へ、口内に流れ込む水の爽やかさを感じながら数秒、思い切って飲み込むこと数秒。
死に戻りする気配はないが……それ以上に気になることがある。
「この聖水、サイダーの味がする……」
そう、なぜか炭酸抜きサイダーの味がするのだ。
べったりとした甘さと風味が口内に漂っている。
本来なら炭酸でさっぱりと流されるはずが、肝心の炭酸が入っていないせいで不快感すら覚えそうだ。
「むぅ……とりあえず邪悪結界解除!」
アイコンが降ってくると同時に私はリスポン。
まぁね、お腹の中に聖水はいっているから死ぬわよね。
その後しばらくリスポン祭りだったけど、称号を得ることなく3分くらいでリスポンがおさまったので聖水の効果が切れたのだろう。
あるいは体に吸収されたのかな……ドライアドの蔦とかに。
まぁいいや。
お次はアイテム類、一番多いのはゲリさんからはぎ取った素材だけど……ここにあるものじゃ手の込んだ料理は作れないわね。
せいぜいがドラゴンテールの丸焼きみたいなものくらいかしら。
それはちょっともったいない気がするから、次。
魔女の魔力と聖女の心臓は奪われてしまったけれど、代わりに手に入れた暗殺者の心臓。
……食べてもいいのだけど、不思議なことにこれ脈打ってるのよね。
血があふれたりする様子もないし、つついても無反応。
だけどドクンドクンと動いているから……踊り食いにしても少し気が引けるので次。
汚職聖職者の生首……?
こんなのどこで……あ、いやいたわ。
勇者パーティと戦う時に通りすがりのNPCで聖職者っぽい人がいた。
そっかぁ、あれのドロップアイテムか。
おっさんの頭部……兜焼きにするにしても絵面が酷そうだからパス、いざという時に使えそうだしね。
どうせなら若い女の子のお肉の方がいいわね……英雄さんなんかはその点ぴったりで、すべすべつやつやの肌は噛みついたときに心地よかったわ。
っと、次のアイテム見なきゃ。
えー……人間の右腕、これはドライアドの蔦で釣り上げて倒した人からドロップかしら。
右腕ねぇ……ふむ、いい事を思いついた。
妲己との会話だけれど、一定以上の邪悪さ。
つまりゲームシステム的に言うと聖属性弱点か、一定以上のカルマがないと妲己の試練は受けられない。
逆に言えば聖属性弱点やカルマの高さが条件を満たしていれば試練を受けられるわけだ。
今後そういうのは増えていくだろうし、化け物になるゲームなのだから酷いことをしても許されるだろう。
さすがに無辜のNPCを惨殺するようなことはしないが、他PCに精神ダメージを与える程度は問題ないはず。
というわけで取り出しました、調理器具上位版。
ふっふっふっ、これぞ今回の真骨頂。
イベントでポイントの大半をつぎ込んだこれがあればどんな調理も可能となる!
たとえレシピを知らなくとも、料理として手順を間違えなければまともな物が作れるのだ。
まず用意しますのは近くの肉屋さんで廃棄される予定だった骨や、野菜屋さんで特価になっていた屑野菜。
これらをぐつぐつと煮込んでいって、上位版特権の時間加速。
この効果を使うと本来ならもっと時間のかかる調理がすぐに終わるのだ。
要するに一晩煮込むとか、パンの発酵を待つとかね。
そんな手順をすっ飛ばしてスープの色が変わってくるのを見て骨や麻布で包んだ野菜を取り出す。
コンソメに近いわね……使った骨は牛骨か何かだったのかしら。
まぁいいわ、豚骨でなかったとしても問題なし!
トマトを投入して煮込んでいく。
他にも具材に肉団子をポンポン入れていく。
これもお肉屋さんで売ってた。
そして最後に、ある程度食べたら人間の右腕というアイテムが浮かんでくるようにセット……せっかくだから暗殺者の心臓も入れてしまおう。
このくらい平気でしょう。
そしてお店を開く。
「体の温まるスープいかがですかー」
さて、反応はどうなるかな?




