首を差し出します
「初めまして、伊皿木刹那です」
「あ、どもども。ナコトです、苗字は無くてただのナコト、好きに呼んでください」
なんかこんな平和なファーストコンタクトって久しぶりだなぁ……。
クリスちゃんの時は初手組手だったし、うずめさんの時は山籠もり中に野生にかえったところに出くわして壮絶な戦闘、フレイヤさんは怖そうな鎧のお姉さんに襲われてるところでといった感じだったからね。
「さて、それでそちらの方々が?」
「お初お目にかかります。この国の皇室の者です」
「あら、お偉いさんでしたか。それは失礼をしました」
「いえいえ、わが国、ひいてはこちらの世界にとって重要なお客様とあればお出迎えは私どもの責務でございます」
「私は一般市民ですから、ただの旅行客とでも思ってください」
「そうはいきません。国賓として歓待しなければならないほどのお立場ではありませんか」
「ただの一般市民を?」
「えぇ、未知の世界から来られたとなればそれはもう」
「なるほど、ですが今回は辞退させていただきます。後ろのお二方がちょっとピリピリしているのと、緊急の案件ということなので」
「かしこまりました。ではこちらをお持ちください。我が国の住民である証拠と、普段使いできる身分証、それを保証して海外渡航が可能なパスポートです」
「これはこれはご丁寧に、この恩はいずれお返しさせていただきます」
「どうぞ、よしなに」
わぁ……大人の会話だ。
見た目は縁ちゃんより小さいのにしっかりした人だなぁ。
最初の方で考えること辞めたけど、未知の世界とかなんとか言ってたなぁ……。
「刹那さん、刹那さん」
「ん? なに、クリスちゃん」
「ナコトさんは身長のこと気にしているのでうかつに口に出すのはもちろん、頭の中で思い浮かべるのもやめたほうがいいですよごぶぇ!」
ズガンッという大きな音と共にクリスちゃんが吹き飛んだ。
キラキラと宙を舞うなにか……あ、お金だこれ。
100円玉がくるくる回転しながら落ちてきたので受け止める。
「こうなります……から……」
白目剥きながらも注意してくれるクリスちゃんには感謝ね。
しかし……ここは私も大人な対応をしないといけないわね。
「小さいとか思ってごめんなさい」
素直に頭を下げた瞬間だった。
ぽんっと手を乗せられ、そのまま撫でられる。
小さなおててで撫でられるの気持ちいいなぁ……とか思ってたら耳元で声がした。
「次はないよ」
ぞくっとした。
同時にぞわぞわと、全身の毛が逆立ち口角が自然に上がる。
「おや?」
「すみません、ちょっとうずいて」
「そっかそっか、若いもんね。じゃあ軽く運動してからその角についてお話ししようか。せっかくだからこの目で見ておきたいし」
「よろしくお願いします」
そう告げると同時に拳を突き出す。
眼前のナコトさんはと言えば同じように拳を突き出してきて、吹っ飛ばされた。
殴りかかって、拳同士がぶつかった瞬間に力負けどころか一瞬も耐える事が出来ずに負けた。
「まだまだ扱いきれてないね。それに……薄まってるからか随分と貧弱だね。これがこっちの人間かぁ……相当手加減しないとまずいかな」
馬鹿にされた、そう感じる事もできないほどの圧倒的なパワー。
彼女が言っているのは侮辱などではなく、純然たる感想にすぎない。
それが酷く腹立たしく、全身全霊を込め距離を詰めて蹴りを放った。
伊皿木流の技も使った一撃必殺の攻撃だ。
「ん、もうわかったからいいよ」
それを片手で止められた。
ピクリとも動かない……この人、強すぎる……。
「んー、とりあえずどこか別室に行こうか。これ壊されると私もちょっと困るからね。あっちの友人に頼むのは申し訳ないし、こっちでニャルちゃんに頼むのも気が引けるから」
「ニャルちゃん……? そういえばクリスちゃんも言ってましたけどどなたですか?」
足をおろして聞いてみる。
彼女も私も蛮族ではない、言語はコミュニケーションの道具として最適だ。
とりあえずそれを駆使してこの人の本性を見抜きたい。
そしてその力の片りんを……いや違う、私こんな考え方しない。
ダメだなぁ……この角生えてからどうにも好戦的だ。
でも気になる物は気になるからね。
「あー、えっとね、育て親かな? もともと捨て子だった私を拾って育ててくれたの。こっちだと主に神父さんやってたはず」
「神父?」
いやな予感がしてきた……。
「そうそう、肌は褐色で髪の長い男性で」
ますます嫌な予感、その外見どこかで見たぞ?
それもつい最近、なんなら会話もしたし喧嘩もした。
「胡散臭い笑顔を振りまいて、ついでに面倒ごとも振りまく」
やめてと言いたいけど、聞いたのこっちなんだよなぁ……。
「ナイって名乗ってるらしいね」
はい、ドンピシャ大正解!
あの人……どこまで面倒ごとの種になるのかしら。
たぶん本作で一番気を使った話。




