俺は悪くねえ!
言霊という概念は私達霊能者にとってかなり重要な意味を持つ。
あらゆる言葉には力が宿ると言われているが、それは真実であり言葉の本質だ。
意味不明な言葉の羅列で意思疎通をはかろうとしても相手は困惑するが、正しい言葉を選べば導くことも突き落とすこともできる。
永久姉のような熟練者が力を込めて「死ね」と言えば相手はその場で心臓を止めてしまうだろう。
それほどまでに強力な言葉という概念、今まで向き合ってこなかった私の一面をうちから抉り出すには十分すぎる効力を発揮してくれたらしい。
全身が燃えるように熱く、同時に体内だけが凍てつくように冷えていく。
どろりとした感覚と共に視界が真っ赤に染まっていく。
比喩ではない、出血している。
VRなのに、なんて言葉は意味はない。
間違いなく、私の頭からは熱く煮えたぎった血が流れ出ている。
ひどい頭痛だ、吐き気も眩暈もする。
けれどそれ以上に……お腹がすいた。
あぁ、なんでもいい、口にしなければいけない気がする。
あの黒いのはダメだ、食べるのが面倒くさい。
目の前の白いのも面倒だ。
でも……黒よりはましだ。
「チッ……飲まれたか」
飲まれた? 誰が? お前を飲むのは私だぞ。
私……私ってなんだ……いや待て、えっと……あぁ思い出した。
お腹が減ったんだ。
だから何かを食べなきゃいけないんだ。
「今はまだ早いらしい。その力封じさせてもらおう」
白が消えた、そう思った瞬間白銀の何かが目の前を通り過ぎ、そして硬質な音を立てた。
これは……鉄の板?
いや違う、刀だ。
「くっ……硬いな」
刀……なんでそんなものが目の前に?
……あ、委員長か。
そうだそうだ、白いのは委員長で黒いのはナイ神父だ。
今はリアルファイターのコラボイベントの最中で試合の途中で……うん、思い出してきた。
飲まれたってそういうことかぁ……不覚をとったなぁ。
「ふんっ!」
側頭部に手刀をぶち込むと同時に脳髄をかき回す。
えーと、この辺りかな?
あぁ、あったあった。
「性懲りもなく人の身体奪おうとしてんなこらぁ!」
引きずり出したそれに向かって強く叫ぶ。
水晶のような小さく透明なそれ、心臓くらいのサイズがあるけど……こんなもの頭の中にあったら大惨事よ。
後でリアルでも引っこ抜いておかないと。
とりあえずいつも通り捕食して……これでよし、邪魔にならない!
「まったく、邪魔が入ったわ。さ、お望み通り本気の勝負をしましょう」
「……あ、いや、はい」
「どしたの?」
「完全に飲まれた状態だったのにあの程度で正気に戻るとか……どんな化け物なのかなって……」
「純然たる人間です。あぁでも混血の話を含めたらそうでもないのかな……まぁ認識は人間です! というか委員長はそれが素?」
「はい、そこにいる糞野郎から強者の雰囲気を出して頑張ってとか言われたので」
「あー、じゃあ後で彼をぶん殴りに行きましょう。リアルで」
ナイ神父に視線を向けるとへらへらしながら手を振ってきた。
よし、蹴りも加えよう。
「それより、今は勝負ね」
「えぇ、では……参る!」
「きませい!」
私の突き出した拳と、委員長の振り下ろした刃が触れた。
その瞬間世界は暗転した。
【エラー発生、多大な負荷が発生したためサーバーを一時閉鎖します】
……あれぇ?
刹那さんが暴食を認めた理由はいくつかありますが、負の面として見ていたのは事実です。
人よりちょっとたくさん食べるとお茶を濁していましたが、本心では自分の本質が暴食であると気付いていたので目をそらしていました。
結果暴食を認めたことでこうなりました。
つまり今までのは仮覚醒だったという……胃が痛い。




