付け焼刃(オリハルコン)
滅茶苦茶怒られた。
そりゃもうメンタル死ぬんじゃないかなってくらいに怒られた。
何とか許してもらえたけど、盛大にイベント盛り上げて認知度を上げるという約束をさせられた。
できなかったら今後一切戦闘できない設定にされるとかなんとか……。
ついでに巨人さんとギャラさんはいつの間にか消えていた。
とはいえ、遠くから戦闘音が聞こえるから仲良く殺し合いしているんでしょうね……もう好きにしたらいいわ。
そんなこんなでフランスまでファストトラベルして、ナイ神父たちと合流。
「やぁ、思ったより時間かかったね」
「全部見てたでしょうに……」
「まぁね、なかなか愉快な光景だったし第二ラウンドも始まってるからあの二人はもう放置でいいかな」
「で、こちらの様子は?」
「委員長とレッドクイーンの勝負が今終わったところ。委員長の勝利だよ」
「へぇ」
ふと見ると大太刀を持った委員長がレッドクイーンさんの両手足を切断して首に刃先を突き付けていた。
なるほど、これは勝負ありよね。
自爆する前に首にざくりでしょうし。
「というわけでこのまま次の試合だけど、行けるよね刹那」
「私はまぁ……でも委員長は大丈夫なんですか?」
「彼はその辺結構強かだから」
「そうですか、じゃあ行ってきます」
そうして対峙したけど……なんか凄い威厳を感じるわね。
なんだろう、どこかで覚えがある感覚……あっ、テンショーさんに雰囲気が似ているんだ。
あと以前ぶちのめした刀の付喪神、素材が鉄だけあって美味しくなかったけど鋭い気配とかがそれに似ているんだ。
凄い……ここまで研ぎ澄まされた気配持っている人は初めて見た。
うずめさんとも、クリスちゃんとも、フレイヤさんとも違う。
あの人達は絶大な気配でこちらを押しつぶしたり、飲み込んだりしてくる。
けどこの人はそれを一点に集中させている。
正面にいるだけで急所を突きさされているような、心臓に冷たいナイフが食い込むようなゾッとする雰囲気だ。
「試合開始!」
挨拶もできないまま、試合が始まってしまった。
同時に膨れ上がる殺気、先程までの試合は全てお遊びと言わんばかりの空気に気おされる。
「呆けている場合か?」
気が付けば目の前に委員長、その手に刀を持ち巨大な式神が追従するように大太刀を振り上げている。
しまった、完全に呑まれた。
「ぐっ!」
とっさに二つの大太刀をはじくけどペースを持っていかれた……けどね!
「だらっしゃあ!」
呑まれたからなんだ!
相手の腹の中?
上等! だったらどこを向いても肉の壁! 喰いごたえがあるってもんよ!
「ほう……」
とっさに繰り出した蹴りだったけど距離をあけるのには十分だったみたいね。
これで仕切り直しかしら。
「さぁ、お前の力を見せてみろ」
ドクンと、心臓がはねた気がした。
今まで私を怖がる人、侮る人、いろんな表情を見せてきたけれど……私を受け入れてくれる人はほとんどいなかった。
それこそ祥子さんやうずめさん、クリスちゃんにフレイヤさんといった身近な人くらいだ。
だけどこの人は会って早々に私という存在を受け入れてくれている。
だったら、その期待にこたえなければならない……というのは方便。
本音はね、ここからの戦いが絶対に面白いものになるという感覚がするのよ。
無意識に口角がつり上がって、喉の奥から笑い声が漏れ出すのをこらえる。
「えぇ、私の……私だけのオリジナルを見せてあげる」
今まで他人の技を真似してきた。
外部の助けを得て新しい力を身に着けてきた。
けれどそんな付け焼刃は意味がない、それほどの相手だ。
だったら、私自身が持っている生まれながらの力、そして培ってきたものに全てを奉げよう。
勝ちたい……この人には勝ちたい、そんな思いが膨れ上がった。
産まれて初めての感覚だ。
視野が狭くなり、委員長の姿が遠くに感じ、背筋には冷たい汗が伝う。
しかし頭はすっきりとしている。
なにをすればいいのかはもう『知っている』。
そのためなら……私は負の面とも向き合う覚悟がある!
「鬼の血に告げる、今すぐ起こしなさい……暴食!」




