なんだこいつ
「えー、では一回戦。レッドクイーンとソリッドの勝負! 解説はフィリアこと刹那と社長の僕がお送りします!」
「もうリアルネーム出されることに文句を言うのも面倒になった刹那です。というか視聴者はこれでいいの?」
「いいらしいよ、最初から知ってたって人の方が多いし」
「そう……」
コメントが見られないのが結構きついわね、実況くらいならできるけど……うーん、どうしたものか。
視聴者が求めるようなコメントできるかしら。
「どしたん?」
「コメントが見えないから視聴者の声を反映できるか考えててね」
「じゃあこれ、配信者権限で一時的に見えるようにしておこう」
そういって目の前に現れたウィンドウ。
ずらりと並んでいるのはこの配信へのコメントね。
『暴食さん見てるー?』
『お前の正体とか誰でも気づくわ』
『魂がガワを喰ってる』
「暴食って言った奴前出ろ、再現に使ってやる」
『ひえっ』
『逝ってこい』
『骨は拾って……無理だな、消し飛んでる』
こいつら私のことを何だと思って……!
「じゃあ前口上抜きで、ファイッ!」
こっちが頭を悩ませている間に始めやがった!
おのれナイ神父、後で殴る!
「さて、まずは様子見のようだけどどう動くと思う?」
「二人の戦闘スタイル知らないから何とも。強いて言うならソリッドさんが武器を持っている事から近接戦闘を挑むのかなって言うことくらいね」
「うん、まぁ50点かな」
なかなか厳しい採点、半分はあっているということはもう半分足りない何かがあるのね。
とりあえず見に徹して……おん?
ソリッドさん、まだ距離は10mくらい離れているのに構えをとっている……しかも距離を詰めるような構えじゃなくて目の前の敵を斬りつけるような構えだ。
「もしかして……」
「お、早くも見抜いたかな?」
「ソリッドさん剣戟を飛ばすとかそういうことするのかなって」
「それも、50点だね」
「むぅ……」
さっきから判定が厳しいわ。
しかしそれ以外となると……あ、もしかして……。
そう思った瞬間だった。
レッドクイーンさんが吹っ飛んだ。
ソリッドさんはピクリとも動いていない。
「念動力……!」
「正解、100点あげる」
「そりゃどうも」
あの構えは油断を誘うための物、本命はこれだったのね。
そして構えたまま筋肉を動かすことなく接近、あれも念動力で自分の身体を無理やり移動させているのかな。
単純だからこそ応用が利いて、結果強力な戦闘力を持っているということか。
もちろんそんな動きをすれば身体に負荷がかかるでしょうけど、相当鍛えたのね。
以前同じような能力の使い手と戦ったことあるけど、あの衝撃波みたいなのってトラックがぶつかるくらいの威力はある。
それで自分の身体を吹き飛ばすようにして動いているのだから相当痛いと思うわ。
「あの軌道はなかなか読めないよね」
銃弾避ける時は之の字に逃げろなんて言われるけど、それを立体起動でランダム回避運動しているからね。
普通は反撃どころか目で追うのも一苦労でしょうね、見えるし読めるし対処できそうだけど。
ついでに私は直進あるのみだからできるけどやらない機動なので目視で予測するしかない。
「でもただでやられるレッドクイーンさんじゃないわよね」
「それはそうだね。だけど……」
突然、レッドクイーンさんの周囲に炎が吹き荒れた。
意志を持ったように炎がしなり、目標の逃げ場を奪う。
だが、次の瞬間ソリッドさんの姿が消えた。
「瞬間移動? ……いや、ワームホール?」
「おぉ、今度は一発正解。念動力で空間捻じ曲げてそこに飛び込んだんだよ。そしてこれで勝負ありだね」
ナイ神父の言葉通り、ソリッドさんの剣がレッドクイーンさんの首に突きつけられていた。
「いいえ、まだよ」
「ん?」
『いや、これもう降参しかないだろ』
『流石にこの状況で逆転は無理だべや』
『そもそもアイドルに求められる戦闘力って何よ』
「レッドクイーンさんの目はまだ闘志を失っていない。それにこの濃厚な殺気……まずっ!」
とっさにナイ神父を盾にする。
同時にレッドクイーンさんの体内から炎が噴き出し、ソリッドさんも周囲で見物していた人たちも、ついでにスターライブの面々も飲み込んだ。
「やっぱり、自爆を残していたわね。勝ちパターンとしては最初から遠距離戦を想定してレッドクイーンさんが動いていたら……と思うけどたぶんそれも難しいでしょ。炎を操るだけだと限界があるからね。そこから考えるとわざとこの状況になるようにして、自爆で巻き込んだ……迂遠だけど初見殺し、嫌がらせ以外の何物でもないけどこれ以上決定的なものはないわね」
「うん、見事な解説だけど社長を盾にして申し訳ないとか思わないのかな?」
「え? むしろ死んでほしい人トップ10に入ってるわよ?」
「何位かな?」
「実兄と同率1位」
「酷い話だ……」
『社長と同列の実兄とは』
『なんだこいつ家族まで化け物か?』
『バグチェックに何も引っかからないバグ』
『今更だけど、俺達何を見せられてるんだろうな……』
『俺らこんな風に作った覚えねえだ』
それは私も知りたい。
こんな人外魔境に一般人の私を巻き込むとか、ナイ神父には人の心がないわ。
ソリッドさん:真剣に考えた結果この人だけで力尽きた異能者
だって! どんな能力者連れてきても刹那さんの前じゃ手品師になっちゃうんだもん!
あと刹那さんの強化につながらなゲフンゲフン。




