むしろそろそろ怒ってほしくて書いた
あの後なんかすごい呆れられながら帰宅した。
マヨヒガちゃん特製の美味しい晩御飯を頂いて、ついでに外部からの攻撃……ナイ神父指示の幼児化を防げなかったことを滅茶苦茶謝られたけど私も油断してたからお互いさまということにしておいた。
まぁ、VOTの中にいるから対処は難しかったけどね。
でも次は跳ね返す!
そしてお風呂に入って、ぐっすり眠って化けオンにログイン!
「おー、来たな。もうみんな準備できているぞ」
早々に出迎えられた私、えーと33番さんね。
ドーピングスープでパワーアップした拳闘奴隷さん。
これから蛮族の国を亡ぼすということでみんな準備していたみたいだけど、みんな結構すっきりした顔しているわ。
「元気そうで何よりだわ。ところでそこの子供は……」
「あぁ、あのがきんちょの弟さ。赤ん坊だったんだが布にしみこませたスープ飲ませたら一気に成長してな。みんなびっくりだったぜ」
「へぇ……哺乳瓶とか使わなかったの?」
「そんな上等なもの俺らが手に入れられると思うか?」
「ごめん、失言だったわ」
「気にすんなよ、あんたのおかげで糞共に目にもの見せてやれたし、これからもっと派手にやれるんだから!」
ん? 過去形?
「なんか静かね……」
「あぁ、このカジノにいた奴らぶっ飛ばして占拠した。防衛に使ってた戦力は軒並みお偉いさんの方に回してるんだろ」
「そっか、みんな頑張ったのね」
うかつな行動だとは思うけど、それを責めるつもりはない。
彼らだって鬱憤が溜まってたでしょうし、なによりもここまでパワーアップした彼らを金持ち連中がそのままほっとくわけないもの。
だったら先手必勝というのは間違っていないわね。
「君、名前は?」
たしかあの男の子は96番君だったわね。
その弟君にたずねてみた。
「タカキ、おねーちゃんのおかげで僕は生きてられるってお兄ちゃんが言ってた!」
「そう、じゃあお兄ちゃんは今どこに?」
「そこ!」
指さされた先には筋骨隆々の成人男性が……え? あれがあの少年?
「やぁ、俺もなんか成長しちゃった。これあれかな、人間辞めた影響とか?」
「か、かもしれないわね」
「だとしたらラッキーだぜ。子供の身体だと手足が短くて大変だったんだよ」
「子供の身体も結構便利なんだけどね……奇襲とか」
「そういうのはタカキに任せてるよ。で、これから国を潰すんだよな! なにをすればいい? カジノ落としの時はタカキも頑張ってたし、俺も頑張らなきゃ!」
「張り切ってるわね。じゃあまずは……と、作戦を伝えたいところなんだけど問題があるのよ」
「問題?」
96番君の疑問、それに合わせて周囲の人も首をかしげる。
そう、彼らには決定的な問題がある。
それは直前まで誰が生き残るか、殺すか殺されるかという敵対関係にあったこと。
まぁ一致団結している今は大した問題じゃないんだけどね、そこから派生する問題がある。
「あなた達、連携とかそういうの無理でしょ?」
仲間同士で協力して、という考えが欠如しているのだ。
万年ソロプレイで、ギルド作ったはいいけど放置している私がどうこう言えた話じゃないんだけどね。
それでも兄妹で仲良く熊狩りに行ったりしたこともあるからそれなりに連携の経験はある。
軍隊に同行して作戦遂行に協力した事もあるから。
「確かに……よくわからんな」
「うん、ついでに作戦とか難しいこと言ってもわからないわよね」
「だな、自慢じゃねえが俺達は生まれついての負け組だった。そういった小難しい事はよくわからねえし教育だって受けてねえ」
「そうよね、それは今後の課題として勉強してもらうとしておきましょう」
「うげぇ……勉強かよ……」
「知恵があればお金儲けも戦いも楽になるわよ」
「でもなぁ……」
面倒くさいのはわかるんだけどね、私も受験勉強の時は苦労したわ。
受験前夜に徹夜で教科書と参考書暗記して、過去問から推測して更に暗記して、どうにかこうにか合格したって感じだったから。
結構不真面目な学生してたからね。
今でこそVOT通勤とVOT通学が普及しているけど、私の時はまだまだ普通の通学の方が多かったから。
おかげで毎日50㎏のお弁当抱えて学校まで行ってたし、授業中はずっとご飯食べてた。
「まぁそれは後のこととして考えてちょうだい。今私が言える作戦は簡単だから安心してね」
「と、言うと?」
「90番から100番の人と、タカキ君は手分けして国の出入り口を包囲、逃げてくる人を叩きのめすなり捕まえるなりして。殺しても怒らないから」
「そいつはわかりやすい!」
96番君がぱしんと拳を手のひらに打ち付ける。
「で、残りの人は好きに暴れていいわよ。できれば国の中枢から落としたいけど、そこは私の出番。街中で好きに暴れてちょうだい。保護したい人とかいたら好きに確保していいし、嫌いな人がいたら殺していい。でも弱者をいたぶるのはやめておきなさい。あなた達がされたことを他の人にすることになるから」
ごくりと、誰かが唾を飲んだ音が響く。
「でもそうね……因果応報という言葉もあるし、やられた相手にやり返す分にはいいんじゃないかしら。匙加減は任せるわ」
「おっしゃあ!」
「うおぉおおお!」
「やってやるぞ!」
うんうん、士気は十分。
あとは、運悪く死なないことを祈るばかりね。
「作戦決行は街の真ん中にあるでっかいお城が爆発したら。だいたい30分後ね、それまでに90番以降の人は持ち場について、残りの人は好きなところに隠れてて」
さて……殲滅の時間だ!




