検査
「んーと、平熱って何度ですか?」
「普段は80度くらいにしてます。夏場はちょっと抑えめで50度くらいに」
「ですよねー、調理用の温度計でようやくですから。お体に異変とかはありませんか?」
「肩こりが治りました」
「それはよかったですねー。じゃあ最後に」
ぴとっと鼻に指を当てられる。
「うん、鼻の頭が渇いてないから問題ないですね」
「犬扱いは酷くないですか?」
「犬のがいくらか上等な生命体です。伊皿木家の方々は縁さんを筆頭に皆さんどこかしらおかしいので既存の医療じゃどうにもならないんですよ。とくにあなたの場合奇妙な技増やしまくりますから」
「このくらい誰でもできますよ?」
「誰でも出来たらこの世界はとっくに人外魔境で荒廃してますね」
「そんなことないと思うんだけどなぁ」
ビームくらい頑張ればお薬無しでもできるでしょ。
瞬間移動だって慣れたら簡単だし、高速移動とかに関してはただの身体能力だから。
あー、でも肉体を霧に変えるとかそういうのはちょっと面倒よね、自分の肉体の質量を変換して、なおかつ意識を途絶えさせないようにしないといけないから。
むやみに練習もできないからあれは本当に難しかった。
「ともあれ、健康体だというのはわかりましたのでさっさとお仕事戻ってください。なんかもう今更子供になるとかそういうのどうでもよくなりました」
「あ、それなんですけどね?」
「はい?」
「ぐぬぬぬ……とりゃー」
全身に力を込めて、一気に脱力する。
すると私の肉体がギシギシという音を立てながら小さくなった。
「自由に子供の見た目になれるようになりました!」
「はいはい、空き缶握りつぶすように人間辞めないでくださいね」
「失礼な、これはさっきまでの意味不明な幼児化と違って全身の筋肉と骨を圧縮させているからパワーは普段の3倍、強度に至っては10倍にも至るんですよ!」
「注射が嫌だからってそれ多用しないでくださいね、針が折れるから」
「だってあの注射痛いんだもん……」
「あなたの皮膚が硬すぎるのが問題なんです。だからダイヤモンドカッターの針にドリル機能つけてぶちぬいているんですからね。知ってますか? 伊皿木刹那さんの身体測定は掘削工事とか、耐久テストとか言われているんですから」
そんなこと言われてたんだ。
そりゃまあ事ある毎に運動場壊滅的に抉ったりとかしてるけどさ。
たしかにこの前いろんなオリンピックの種目やらされて、棒高跳びで棒の使い方わからなくてそのままジャンプで飛び越えたりしちゃったし、やり投げや砲丸投げで大気圏突破確認しちゃったけど。
随分な評価が広がっているのね。
……いや、槍と砲丸で人工衛星一基ダメにしちゃったのは反省しているわよ?
でもあれメイリンさんのとこの軍事衛星だからセーフ、滅茶苦茶怒られたけど色々あって許された、許してもらった、許させた。
「ちなみに老けることはできるんですか?」
「これ全身の筋肉とか骨圧縮してるだけだから無理です。あ、でも弛緩させたらしわとか再現して変装できるのかな……やりたくないけど」
「はいはい、他に変なことできるようになってないですよね」
「んー、変な事の基準は?」
「一般人にできないこと」
「それならないですね、問題ないです」
「そういうことにしておきましょうか」
納得がいかない様子だけど本当に変なことはできないって。
強いて言うならご飯の代わりに電気を吸収することができるようになったとか、発電して放電できるようになったとか、肺の中で酸素だけを取り出して相手に吹きかける事で昏睡させられるようになったくらいよ。
一般人でもこのくらいはできるでしょ。




