はかったな!
「そこをなんとか!」
「お断りです」
「月々このくらいの金額が支払われるけど?」
どこからか取り出したそろばんをぱちぱちしたナイ神父。
えーと……一般的なサラリーマンの3か月分か、悪くないけど食費の足しにもならないわね。
「ついでに大体の物は経費で落とせる。今なら食費も……」
「のった!」
「じゃあこの書類にサインよろしく」
「ちょーっと待ってね?」
差し出された契約書に目を通す。
ついでに明鏡止水で合一して妙な内容が書かれていないかも入念にチェック。
……うん、やっぱりあった。
「ねぇ、この部分」
「なんかあったかな?」
しらじらしい……。
「会社を甲として契約者を乙とするという記載が真っ先に出てきているけど、乙は甲が求める仕事をこなす必要があるってあるわよ。なにこれ紙の繊維に極薄のペンで書いてあるけどどんな技術よ……」
「ちっ……やっぱり簡単には騙せないか」
「おいこら」
「そりゃまあうちは大手だからそれなりに仕事してもらう必要があるってだけでな?」
「本音は?」
「魑魅魍魎と切った張ったの大立ち回りを期待している」
「却下」
契約書を破り捨てる。
「はい、契約成立ー」
「は?」
「特殊な異能者の能力で、破り捨てた瞬間に浮き出るようになってる文言があるんだよね。ほらここ」
指さされた場所を見てみる。
さっきまで何も書かれていなかった場所、というか文字の隙間。
そこに文字が浮かび上がってきた。
えーとなになに?
この契約書を破り捨てた者は当社と永久契約を結ぶことを了承したとみなす……はぁ⁉
「ちょ、詐欺でしょこれ! というかどうやって隠してた!」
「それは企業秘密」
くっ……明鏡止水が通じないとかどんな反則使ったのよ!
はっ、反則……?
ナイ神父の企てね!
「おのれぇ……」
「安心しなよ刹那、僕は約束は守る。でもまぁさっき僕は今なら食費も、としか言ってないからね」
「ぶち殺しますよ?」
「おぉこわい。まぁ続きを言うなら食費もこちらで負担するということも考えてもいいかなと言いたかったんだけどね。特別サービスでちゃんと計上してくれたら食費も用意するさ」
「言質はとりましたよ」
ここは公安の施設、ちゃんと音声から映像まで記録されるのだ。
主に女性職員によって更衣室やトイレなども監視されている。
それだけ厳重なセキュリティになっているのは、流石に国の中枢というだけあるかな。
ちなみに、シェルターを独占している縁ちゃんはコアラかパンダのような扱いを受けていたりする。
読書をするでもなく、普段からぼーっとしている様子であの見た目。
女性職員からマスコットとして可愛がられているのだ。
本気を出したら怖い所も似ているわね、パンダと取っ組み合いの喧嘩した時は大変だったわ。
動物園でやらかしたから出禁になったけどね!
「伊皿木刹那さん、診察の時間です。面会の方は……いや面会じゃないのか、被告人は直ちに撤収してください」
「おーっと、これはいけない。刹那もちゃんと体調に気を付けるんだよ?」
「どの口が言いますか」
枕を投げつけようと構えたところでドアが閉められたのでそのまま思い切り投げつけた。
バスンという音と共に特殊硬化木材のドアを突き破って向こう側でニタニタと笑っていたであろうナイ神父の顔面を捉えた枕が、そのまま穴から見えなくなりドスンという人が倒れる音を立てた。
「公安を壊さないでください」
「ごめんなさい」
やりすぎちゃった……。




