今更だけどなんだこいつ
「……知らない天丼だ」
「天井ね」
声のした方に目を向けると一会ちゃんが枕元で本を読んでいた。
今時紙の本が常備されているのって図書館と祥子さんの部屋と公安くらいよね……。
「祥子さんと縁ちゃんは?」
「祥子さんは刹姉のお腹の虫の声聞いて昏睡中。縁はあの呪いもどきの犯人追いかけて出て行った」
「珍しい」
あのものぐさで出不精な縁ちゃんがそんなことするなんて……。
てっきり面倒くさいからって言ってシェルターに引きこもってお昼寝でもしているかと思った。
「刹姉が被害を受けるレベルとなればあの子もさすがに動くわよ。それに祥子さんにも被害が出ていたから。あの子あれで祥子さん大好きっこよ?」
「伊皿木家からモテモテね」
「あの人なんか変なフェロモン出しているんじゃないかしら。あるいは人外とか?」
「まっさかー」
「でも縁から食べさせられた妙な飴玉。製法聞いたけど正直ドン引きよ」
「あー、うん。すっごい甘くておいしくてすぐお腹いっぱいになったわ」
「その返答にもドン引きよ」
「えー」
「えーじゃない。本気で殺すつもりでやったのに十分程度で意識取り戻して平然と動いている事にもドン引き。辰兄さんですら半日昏睡させられるのよ?」
「潜り抜けてきた修羅場の数と質と種類が違うわ」
辰兄さんの場合恋愛方面の修羅場、私の場合リアル命の危機の修羅場だからね。
そりゃ回復力だけなら辰兄さんにも勝てるかもしれないわ。
まぁ……あの人は生命力がいかれているからなんともいえないけどね。
「それにしてもなんだったのかしらね、あれ」
「んー、一会ちゃんが呪いもどきって言った通り純粋な呪いじゃないわよね」
「だとしたら刹姉なら跳ね返しちゃうでしょ、パッシブで」
「うん、それに妙なお薬だとしても分解しちゃうから何の問題もないはず」
「そうよね。それにマヨヒガちゃんのセキュリティを潜り抜けているというのが問題よ。狙われたのが刹姉だからよかったけど……」
「いや良くないでしょ」
「祥子さんが狙われるよりも良いでしょ」
「たしかに……」
祥子さんが狙われたら私も一会ちゃんも縁ちゃんも、クリスちゃんもフレイヤさんもうずめさんも正気ではいられなかったと思う。
我が家のアイドルだからねあの人。
みんな大好き祥子さん!
「実際のところなんなのかしら」
「うーん、あくまでも仮定だけど異能の一種かしら……そういうの使う知り合いが何人かいるから」
「刹姉……異能って中学生の妄想じゃあるまいし」
「それ言ったら伊皿木家なんて異能通り越した異常者の集まりでしょ? 霊感とかも含めていまだに科学的に判明してないあれこれや、人体の持つすーぱーぱわーなんかをひっくるめた物が異能よ」
「そう言われるとわかりやすいけどさ……でも他人を子供にする異能ってどうなの?」
「戦いにおいてはすごく有用だと思うわよ?」
「いや、性癖的なあれこれ。変態的で局所的すぎない?」
言われてみればそうね。
うーん、だめね、最近脳みそが戦闘と祥子さんのこととご飯のことしか考えてない。
今は脳筋と言われても反論できないわ。
「で、そのお知り合いはどんな能力使ってたの?」
「目からビーム出したり」
「刹姉もできるわね」
「肉体から超音波を発して相手を気絶させたり」
「さっき祥子さんが被害受けてたわね」
「溶解液を吐いたり」
「いつもやってるじゃない」
「分身したり」
「この前部屋の掃除に使ってたわよね」
「テレポートしたり」
「この前は送ってくれてありがとう」
「人の成長を反転させたり」
「そいつだぁ!」
一会ちゃんの声が病室に響き渡った。
耳が痛い……。




