可愛いは正義
えーと……身体が滅茶苦茶熱くなったと思ったら浮き上がってきた紋様。
刺青にも見えるけど……こういうのって普通元の身体に戻ったーとかそういうパターンじゃないの?
「せっちゃん?」
「あ、祥子さん。これ見てくださいよ!」
「これって、なに?」
「なにってこの刺青みたいな紋様です! 温泉好きなのにもういけない……」
しょんぼりと肩を落としていると祥子さんは不思議そうに首をかしげる。
「なにもないけど、すべすべのお肌よ? 子供特有の」
「え?」
「一会さんは何か見える?」
「うっすらとですけど、刹姉が気にしているだろうなーって痣みたいなのが浮き上がってます。でもこれってなんだろう、見たことないなぁ」
「一会ちゃんには見えるの?」
「見えると言っても本当にうっすらよ? プラモデルの青いパーツに墨入れした時にはみ出した部分くらい目立たない」
「ごめん、その例えはわからない」
「じゃあ縁と祥子さんのおっぱいの差くらい」
「ちょっと!」
抗議の声をあげる祥子さん、羞恥と怒りの感情で顔を赤くしているけど……。
「それは結構はっきりしてると思うよ」
「そうね、祥子さんは素で大きくないタイプだけど縁は着やせするから」
「こら!」
「あ、じゃああれ。刹姉の月々にかかる食費の差額」
「あぁ、それはわからないわ」
「ごめん、今度は逆にはっきりする」
祥子さんが申し訳なさそうに手を挙げる。
んー、月々数百万の誤差なんて普通だと思うんだけどなぁ……。
外食すると結構かかるけど、自炊した月だと何百万か安い。
そんなに大きな違いじゃないと思う。
「んー、困った。みんなの意見をすり合わせるのって大変なのよね」
一会ちゃんが唸り始めているけれどそれどころじゃないのよねぇ。
さっさとこの話を切り上げて……あ。
「縁ちゃんと一会ちゃんが持ってるもちにゃんグッズの限定版と通常版の違いみたいな?」
「それはわかるでしょ!」
「せっちゃんの意見に賛成。つまりよほどのマニアじゃないと見分けられないくらいのものってことね?」
「ぐぬぬ……異論はあるけど、そうです。目を凝らしてようやく気付けるようなうっすらした紋様です」
唸りながら一会ちゃんがこっちを睨んでくる。
口元がかすかに動いているけど……えーと?
「あとでゴスロリからのクラシックメイド服……お風呂では隅々まで洗って夜はネグリジェで抱き枕……」
あ、今日私は妹に貞操を奪われるみたい。
祥子さんに頼んでシェルターに泊めてもらおうかしら……。
無理ね、一会ちゃんの体術ならどんなに強固な扉だろうが粉々に粉砕するわ。
ここはあきらめ……ない!
祥子さんのベッドにもぐりこませてもらおう!
一晩くらいお風呂に入らなくても大丈夫だから!
「それで、何か問題があるの?」
「んー、問題と言いますかなんといいますか。これたぶん呪いに近い何かです」
「呪いとは物騒ね。でもなんで今になってそんな風に可視化されたの?」
「私の想像でよければなんですが」
すっと手を挙げた一会ちゃん。
手のひらでそれを促す。
「刹姉がお腹いっぱいになったことでエネルギーが満ちたんじゃないですかね。それで体内に留まることができなかった呪いのエネルギーが外に放出された。結果として可視化されて、霊感の差で刹姉にはくっきり見えて私にはうっすら見える状態なんじゃないかなーって」
「なるほどね……ん? それって危なくないかしら」
「そう言われてみれば……」
2人がそう呟いた瞬間だった。
体中の紋様がひとりでに動き始めて、近くにいた人たちに襲い掛かる。
公安の人はもちろん、祥子さんや一会ちゃんにも。
「はっ!」
その紋様を殴りつけるようにして払おうとした一会ちゃん、一瞬はじけた呪いだけど、小さな破片が一会ちゃんの腕にまとわりつきそのまま全身にいきわたる。
祥子さんはキョトンとした様子でこちらをうかがっており、今の状況で私が近づくのは危険と思って離れようとしたんだけど……手足が短くなってたことでうまく動けずに転んでしまった。
そして食堂にいた公安の人たち全員の声が木霊する。
「うわっ!」
「きゃっ」
「なんだこれ!」
「うひょお! ロリ化した!」
「俺、研究中の薬飲んだっけ?」
「ひゃっほい! ロリショタいっぱいだ!」
一部変態が混ざっているけど大丈夫か……?
「うぅ……不覚」
「一会ちゃん!」
地面に倒れた一会ちゃんが体を起こすと、そこには幼稚園当時の姿そのままの一会ちゃんがいた。
そして私の隣にはというと……。
「え? え? なにがあったの?」
何が起こったのかわからない様子の祥子さん、おそらく小学生くらいの姿でそこにいた。
うん、迷わず抱きしめたね、反省はしてないし後悔もしていない。
可愛いは正義よ!




