フレイヤさん「糞映画の匂い!」
結局、私の提案は今までにない趣向だと面白がった上層部とやらに認められた。
これで私は遠慮なくこの人たちを魔改造……もとい、強くなる手助けをしてあげられる。
集められた100人、数字が若い人は体格もよくそれなりの食事やトレーニングができたことがうかがえる。
対する後半の人達は……まぁ正直勝負にはならないだろうなという人ばかり。
例えば肉が無くがりがりでお腹が出ている人や、骨と皮だけの子供、歩くことすらままならない御老体などなど。
これだけでもこの国の実態がわかるわね……いや、街に入った瞬間からわかっていたけどさ。
「さて、これからあなた達100人を一騎当千の戦士に変えます」
「はっ、どうせ生き残れるのは一人だけなんだろ。このまま殴り合いでも始めさせたらいいじゃねえか」
そうぼやいたのは……7の数字を与えられた男性ね。
背中に数字が刺青で彫られているわ。
「ふふ、私は一騎当千の戦士にするって言ったのよ? それが100人、10万人の敵をなぎ倒せるだけの人員、それが何を意味するか分かる?」
「わからねえなぁ、金持ち様の道楽はよ」
「元お金持ちよ。今は素寒貧で一文無し」
「ちっ……こんなくだらねえ茶番に全財産使うなんてな。そんだけあれば一生遊んで暮らせただろうが」
んー、そりゃまあリアルマネーで同じくらいの金額あったら一年は遊んで暮らせたわね。
ただ一生は無理、我が家のエンゲル係数舐めるなよ?
「そうでもないけど、人生何事も楽しむのが吉よ。で、どうする? あなたの言う通りこの100人で殴り合って最後の一人を決める? それとも100人と私でこの国をひっくり返す?」
「見世物として殺すのはごめんだ。だが殺されるのはもっとごめんだ。やるならあの豚どもを殺してやりてえ。けど不可能なんだよ」
「なんで?」
「この首輪を見ろ」
そう言って7番さんが指さした首輪を見る。
んー、黒くて硬そう。
あと魔法学校で齧ったインゴットとは別物の金属だけど炎の魔力を感じる。
それにこの匂い……火薬ね。
「無理やり外したり、逃げると爆発するんだよ。奴らに逆らってもドカンだ」
「なんだ、その程度か」
思わず口が滑って本音が漏れてしまう。
「あ?」
「あぁごめん、いやその程度ならどうにでもなる肉体をあげるつもりだったんだけど……痛いのは嫌?」
そういうと7番さんは顔をしかめて黙ってしまった。
代わりに、といった様子で96番と刺青を彫られた男の子が声をあげる。
「なぁ姉ちゃん、俺が強くなれば弟を助けられるのか?」
「弟?」
「病気なんだよ。母さんが死んで、弟はまだ赤ん坊なんだ。俺が稼がなきゃあいつが死んじまうから……」
「助けたいなら手を取りなさい。何もしない人に手を貸してくれる人はいないわ。これはあなたの意思。ただし人間ではいられなくなる。その覚悟があるならば、私の手を取りなさい」
そう言って96番君に手を差し出す。
それを少年は、迷うことなく握りしめた。
「いい覚悟ね。さて……他の人はどうする?」
「……人間じゃなくなるって言ったな。具体的にはどうなる」
「最低でもこのくらいは」
そう言って装備を突き破り翼と蔦を出す。
一瞬驚いた様子だったけれど、逆に言えば大きな混乱はなくすぐにみんな平静を取り戻した。
「あんまり驚かないのね」
「この闘技場、普段は化け物との殺し合いばかりしているからな。100人で挑んで何人生き残るか、何番が生き残るかって悪趣味な賭けだ」
あぁ、ルーレットを人間でやってるのか。
そりゃまた悪趣味だ。
「ま、少なくともそんな爆弾じゃどうにもならないし豚共じゃ逆立ちしても勝てないくらい強くしてあげるわ」
「なら乗った。お前らはどうする」
7番さんと96番君が周囲を見渡す。
そして全員が拳を突き出してきた。
100番のお爺ちゃんすらもよろよろと拳を突き出す。
決まりね。
「じゃあまずは……どこかにプールか水槽はないかしら。あなた達が行っても問題ない場所で」
「それならギャンブルで水中戦やらされる場所があるから案内するぜ。今は次の殺し合いに向けて誰も使っていないはずだ」
「中に何かいる?」
「なんつったかな……ギャングジョーっていう海の化け物がいる。鋭い牙とざりざりした皮膚を持つ魚みたいな怪物だ」
……それってサメかしら。
あの映画でよく飛んだり幽霊になったり蛸と合体したりチェーンソーで真っ二つにされてるやつ。
アンモニアの匂いがして下処理ちゃんとしないとあまり美味しくないのよね。
「いい素材になりそうね」
「はっ、あんた大概狂ってるな」
「失礼な。私は常に模範的な女よ? 品行方正で強きに抗い弱きを喰らうね」
「いや、戦ってばかりじゃねえか」
「そりゃ世の中弱肉強食ですから」
まぁ……しいて言うなら弱者のお肉なんておいしくないけどね。




