ギャンブルも強い女
「なぁいいだろ? なんならあんたの身体でサービスってのでも構わねえんだぜ?」
「触るな下郎」
渾身の威圧をぶつける。
それだけで男は泡を吹いて倒れてしまった。
いや、その男だけで済めばいいんだけど……まだこういう威圧みたいなの慣れてないからさ。
ちょーっと加減間違えて普通のお客さんも何人か巻き込んじゃった。
……静かになったからヨシッ!
「1万枚、ご用意させていただきました」
そんな小さなイベントがあったけど、お兄さんが青い顔してコインを持ってきた。
えーと、ざっと見枚数に過不足はっと……。
「3枚多いわよ」
「え?」
「数えなおし、それとも骨を折られたい? 好きな場所を選びなさい、あなたが答えた個所以外を折るから」
「し、失礼いたしました!」
賄賂のつもりか、ただの数え間違いか知らないけれど舐められたものね。
こちとら小さい頃からお母さんに鍛えられているのよ?
夜中真っ暗な部屋で黒い碁石を何個投げたか一瞬で見極める、なんて訓練もさせられたんだから。
その場に積み上げられたコインの枚数を把握するなんて造作もないわ。
「お、お待たせいたしました。おっしゃる通り、3枚多く入れてしまいました。不手際をお詫びいたします」
「……今度は問題ないみたいね。それで、一番手っ取り早く稼げるゲームは何かしら」
「カード類がよろしいかと。ポーカーにブラックジャック、その他各種ゲームを取りそろえております。無論カードは都度新品を開封して使いますのでいかさまなどは基本行われません」
基本、ね……。
「それがばれたら?」
「指を切り落とすルールとなっております。またこれも賭けの対象となりまして、特別な器具を用いるので機会があればご参加ください」
「そう、機会があればね」
つまりいかさまそのものはルール違反じゃないけど、ばれたらただじゃ済まさないということね。
なかなかスリリングだけど……ベガスで潜った裏カジノに比べたらまだ生ぬるいわね。
あそこはいかさま発覚と同時にロシアンルーレットスタートだったから。
10発装填可能なリボルバーに9発の弾丸を込めて一度だけ引き金を引く。
それだけのルールで生き残れたらおとがめなし、死んだらそれまでだった。
私はいかさましたっていちゃもんつけられて、相手が大富豪だったこともあって見せしめにやらされたけど生き残った。
いや、まさか10発分の弾丸が装填されてるとは思わなくてね……ルールも聞き流してたから9回トリガー引くものだと思ってガンガン撃っちゃって、たんこぶできちゃったのよね。
あと耳が痛かった。
残った一発は相手のどてっぱらにぶち込んであげたけど、割と元気そうだったから問題なし。
それ以来仲良くなって、ナイ神父の被害者の会を立ち上げたのよね。
元気にしてるかなぁ、ノーデンさん。
まぁいかさま自体はしていたんだけどね、ボトムディールって言うやつ。
お父さんから教わったんだけど、うまくいかなくってばれちゃったのよ。
さて、そろそろ何を遊ぶか決めようかしら。
「こちらはブラックジャックの席です。遊んで行かれますか?」
「そうね、せっかくだから」
ブラックジャック、正直いかさまとかほとんどできないゲーム。
できるとしてカードカウンティングだけど、それはディーラー側が阻止するでしょうからほぼ無理と言っておきましょう。
まぁ問題なし。
「ではこちらが手札です……追加でカードを引きますか?」
「不要よ」
「そうですか。ではディーラーのルールに従い……数字は19です」
ブラックジャックではディーラーの手札が17以上になるようにしないといけない。
これは確定で、16以下の数字の手札の時はどんなことがあってもカードを引かなきゃいけないのよ。
対してプレイヤーは手札の数字がどんなに小さくても引かないでもいいからね、ルール上21を超えたら自動的に負けになるという簡単なゲームだけど奥が深い。
だって、やろうと思えば2のカードが2枚、合計4の手札でも勝てるから。
ただ今回に限っては結構強い手札できたからね、こちらもちゃんとした手札じゃないと意味ないのよ。
「21、ブラックジャックよ」
こんな風にね。




