刹那、キレた
さて、そんなこんなでたどり着いた蛮族の国とやら。
うん、まぁ、見るからにって感じよね。
街全体がスラム街みたい。
それこそ英雄プレイヤーが占拠していたゲリさんの国とか、リリーたちのいたスラム。
というかそれすらも可愛く見えるレベル。
道端で倒れている人がいるし、注射の跡がある人も転がっている。
街のど真ん中では人が磔にされて火あぶりにされて、それを無言で眺める群衆がいる。
なにより、この街にいる人だれもが同じ目つきだ。
獲物を狙う目、だというのに腐った魚のように濁っている。
その日暮らしを突き詰めた結果生きる気力をなくして、惰性で生きているけれど、それでもいつかはと夢見るような。
そんな暗い瞳。
なんともぞっとしない光景。
「ねぇ、お姉さん花買わない?」
「花?」
突然声をかけてきたのは一人の少女。
その手に握られているのはバスケットと、その中にぎっしり詰められた乾燥させた草……匂い的に大麻?
「今なら安くしておくよ?」
「悪いけれど薬物には手を出さない主義なのよ」
「チッ……」
少女は舌打ちするとどこかへと去っていった。
うーむ、荒れているしすさんでいる。
とりあえずカジノに向かおう。
目的を果たせるかどうかはそこ次第だからね。
えーと、あの中央の大きな建物がたぶんそれね。
ひょいっとひと跳びしてドアを開ける。
「いらっしゃいませ。初めてのお客様ですね。当カジノの説明は必要でしょうか」
「お願いするわ」
やけに仕立てのいい生地ね、彼の服。
外の人達とは大違いだけど、目つきだけは同じだわ。
「かしこまりました。まずこちらで専用のコインと現金を交換していただきます。このコインを用いて賭け事に挑んでいただき、退店の際に現金と交換させていただきます」
「景品なんかはあるのかしら」
「用意してあります。そちらを求めるということは英雄に属する方とお見受けしても?」
「似たようなものよ、旅をしながら珍品を求めるって言う意味ではね」
「さようですか。ですが私共としましては成功を約束できかねますのでご了承くださいませ」
「カジノなんだから当然でしょ。それよりコインと交換ね、レートは?」
「はい、こちらの黄色のコインが一番下のランクで100リルから交換できます。上はこの白いコインで10万リルでの交換です」
「そう、じゃあ白コインを1万枚ほど用意してもらおうかしら」
「……お客様、そのようなご冗談は笑えませんが」
「1万枚用意しろ、といったのよ。冗談なんかじゃなく本気でね」
インベントリから実体化させたお金をズドンとテーブルに乗せる。
それを見た瞬間周囲の人間がこちらに目を向けてきた。
ギラギラとした視線、これは勝っても負けてもまともに退店できそうにないわね。
「……かしこまりました。専属の護衛と共に用意いたします」
「邪魔だから不要よ。自分で運び自分で守る、それがここのルールじゃないの?」
「チッ……では、ご用意させていただきます」
おい、舌打ち聞こえてたぞ?
どさくさに紛れて盗むつもりだったな?
「ちゃんと数えるからくすねようとしても無駄よ。足りない枚数と同じだけあなたの骨を折る」
「……そのような事、我々がするはずがございません」
「どうだかね」
ふぅ、と一息ついて吸血鬼用のジュースを飲む。
うーん、美味しいんだけど英雄さんの血と比べると微妙。
まぁ比べる相手が悪いわね、反省反省。
「よう姉ちゃん、新参者の割には羽振りがいいじゃねえか。ちょいと恵んでくれよ」
……人の食事中に無粋な輩がいたものね。
なんだぁ? てめぇ……。




