リアルでも同じことできる女
「いいわよ。ついでに私が知っているロストガンの弾丸生成法も教えてあげる」
「それは助かるが……」
「返せるほどの物がないって言いたいんでしょ? 手頃なものから研究結果いくつか教えてくれれば十分よ。それも独自研究で極秘とかそういうのじゃなくて公的に発表しているもので」
「そんなものでいいのか?」
「個人的興味と、身内にそういうのが好きな子がいるのよ」
マヨヒガちゃんがね、ゲーム内で得た知識であってもできれば教えてほしいとおねだりしてきたの。
この前新型ロボットの装甲材に既存の合金では強度不足だって嘆いていたからね。
「ふむ……ではこれなんかいかがだろうか。君のような旅人、それも魔の者となれば武器や防具は必然的に重要視される。その手の物に使いやすい魔導強化鉄だ」
先生が棚から引っ張り出してきたのはインゴットだった。
うむうむ、そういうのが見たかった。
マヨヒガちゃんへのいいお土産になりそうね。
「ちょっと失礼して……」
差し出されたインゴットを手に取りまず重量を確かめる。
ふむ……このサイズにしてはずいぶん軽い。
鉄と言っていたけれどアルミくらいにしか感じないわ。
ずっしり感が足りない。
「軽いだろう。内部の分子量を変えてあるから鉄でありながらその軽量だ」
「でも脆いと意味ないわよ」
「問題ない。魔法により分子の位相を固定してある。強度的に言うならばオリハルコンに一歩劣る程度だ」
「へぇ……」
オリハルコンの強度を知らないから何とも言えないけどね。
うーん、やっぱり手っ取り早く調べるにはあれが一番かしら。
「これ、壊してもいい?」
「構わないが先ほども言った通り相当硬いぞ」
お許しは出た。
じゃあ……いただきます。
「おい!」
「んー、歯応えはいまいち。なんだろう……油揚げ食べてる気分ね。それもちょっと揚げ過ぎたやつ。鉄を基にしているのはたしかなんでしょうけどこれは……なにかしら、銅が練り込まれている? それに炭素……食感的に木炭じゃないわね。えーと、それからこのふわふわしたのが魔力かしら。綿あめみたいだけど無味無臭……でもないわ。ピリッとした感じとツンと突き抜ける風味にふわりとした舌触り。なかなか面白いわね」
「驚いた……いや、鉄を食べたこともそうだが銅や炭素、そして魔力の方向性まで見抜くとは」
「方向性?」
「あぁ、炎と氷、相反する属性で常に強化を続けている。鉄は熱してから急激に冷やすと硬くなるという性質を利用したのだ」
「でもそれだけだと脆くなるわよね」
「あぁ、そこでじわじわと冷ます事で粘りを出すように風の魔法も加える事で常に硬さと粘り強さを保っているのだ」
「へぇ……それはなんとも」
日本刀みたいな金属ね。
まぁあれとは違ってこれ単品で二つの属性を持たせているというのが凄いけど。
ただなぁ……魔力というものを理解しないと再現できない金属よね。
私はさっき食べた時に感覚で理解したからリアルでも使えそうだけどなぁ。
でも燃費悪そう。
これなら普段人を呪う時に使っている呪力とかそういう方が楽ね。
あれは単純に恨みとかそういう感情パワーを使ってるだけだから疲れる事は疲れるけど、それでもイラっとした時のこと思い出すだけで十分な効力があるもの。
「それで、このインゴットについて何か意見はあるか?」
「いいえ、実に見事なものね。強いて言うなら加工の際に魔法が必要だと思うけど、その魔法が金属内の魔力に反応しないかが気になるところかしら」
「そこまで見抜くか。お察しの通り、この金属は生成時に形状を決めておかなければいけないという弱点がある。形状を変えるべく魔法を使うと魔力を込める工程から遣り直しだからな」
「ということは魔法系の攻撃にも弱いんでしょ?」
「そうだ。だからこそ我々はこの金属で作った武器を流通させようとしている」
「……悪党ね」
「それほどでもない。我々の安全のためだ」
この人たちがやっていることは酷いマッチポンプ……とも言えない何か。
えーとね、まず強い武器が出回ります。
その武器を使って戦争が起こります。
ある時戦争が終わり、こんな危険なものを作れる奴らこそ危険だと言い始める人達が出てきます。
そうなった時に一方的に蹂躙できる土壌を作っているという恐ろしい話よ。
しかもまだまだ隠し玉がありそうね……。
「これ、他にもやばいもの流通させてるでしょ。例えば……黄金の林檎とは違って致死性じゃないけど効力切れた瞬間に動けなくなるくらいの倦怠感を覚えるとか」
「さすが、とだけ言っておこう」
にやりと笑う先生。
……この人こわいよー。




