教師に向いているようで向いてない人
「というわけで特別講師のフィリアと」
「ローゲリウスです。一応王様やってます」
生徒から特別講師へランクアップした私、そしてついでに巻き込んだゲリさんが並んで教卓に立った。
うーむ、しかしどうしたものかしらねこれ。
全校生徒で集められるだけ集めたと言っていたけど……最前列で子犬君がこっち睨んでる。
そりゃまあ尊厳から何からすべて垂れ流しにした子だから反発するのはわかるんだけどねぇ。
そんなに敵意もたれてたらこっちもやりにくいわ。
「そんじゃまず何を教えるかというと、戦場での生き残り方でいいかしら」
私の言葉に全員が息をのみ、空気が凍った。
シーンと静まり返っただだっ広い教室。
おかしいな、以前海兵隊で同じこと言ったら大爆笑でめちゃくちゃうけてたんだけどな。
やはり子供に同じリアクションを期待するのは間違っていたか……。
「とりあえず攻撃は避けるのが基本、ただし相手の攻撃がこちらの回避を狙っているものだと判断したらガードか迎撃、可能なら迎撃ね。これができないと死ぬわ」
「質問、その見極めはどうしたら」
「経験」
「はっ、講師が言う言葉じゃないな」
おい子犬、聞こえているぞ。
人を小ばかにした態度、流石に温厚な私でもカチンとくる。
「そこ、私語厳禁」
とりあえずお決まりのチョーク投げ。
「甘い!」
それを迎撃しようと魔法を行使した子犬、しかもさっき見せてもらったのよりもかなり早く速度重視の魔法を選んでいる。
ふむふむ、敗北から学び生かしたのはいい。
けれどね。
「それが甘い」
投げたチョークがジグザグに飛んで、更に追撃で投げたチョーク、その二つが子犬の頭部を上下から挟み込むようにして穿つ。
「このように迎撃やガードを見越した攻撃もあるので回避が有効よ。無駄に力を誇示しようとした馬鹿の末路がそれ」
ふふんと勝ち誇ってみせると子犬が顎と頭頂部を抑えながらこちらを睨んでくる。
なかなかのタフネス……コンクリくらいは砕ける威力出したんだけどな。
「さて、次に攻撃だけど彼の選択肢は正解。一撃の威力というのは確かに重要、だけど一番重要なのは精度、だけど精度を出すにはやはり経験がものをいうようになってくるわ」
手のひらでチョークをもてあそびながら説明を続ける。
「そういう時はこう」
十本のチョークを子犬めがけて投げつける。
「くっ!」
複数の攻撃に対して防御魔法を固めた子犬、しかし甘い。
すっぽ抜けたように見せかけたチョークが軌道を変えて彼の後頭部を穿つ。
そして防御魔法が解けると同時に他のチョークが数本命中した。
「数を撃てばいくつかは当たる。その中に本命や裏をかいた攻撃を混ぜるとなおよし。これが攻撃の基本であって、一撃の威力を求めるならば広範囲を焼き払うくらいのじゃないと意味ないわ。それも仲間と共闘が前提となってくると考えなさい」
リアルで言うところの爆弾ね。
それを使い敵の場所を特定しながら時間を稼ぐ兵士と、使用拠点の違い。
拠点を攻められたら使えない、兵士を巻き込むかもしれないから指示と連携は適切に、それが重要。
「とまぁ私が教える戦闘の基礎はこれ。ただそこに至るまでにもっと重要な事があるわ」
生徒をぐるりと見渡す。
子犬がこちらを睨み、先ほどゲリさんの股間を土魔法でぶち抜いてレベルアップした子たちは興味津々といった様子で次の言葉を待っている。
「まずは基礎。これができていないとどうにもならない。素早く撃てる攻撃、そのバリエーション、一発一発の威力、コントロール、これらを鍛え上げるのが先決よ」
「質問です。それはある種当然のことではないですか?」
さっきレベルアップした子の一人が手を挙げる。
なかなかいい質問ね。
「その通りよ。だけど練習で使えるのと実戦で使えるというのは別の話、そして一番重要なのは十分だとか考えないこと。どこまで行っても不十分、それが練習よ」
「不十分……」
「そう、周りからどんな風に言われても鍛える事をやめてはダメ。驕りは命の危機に直結する。そして感情ではなく感覚で極めたと理解した時相手がどのような攻撃を狙うかわかるようになるもの」
「それは、どうしてですか?」
「そうね……例えばあなたが炎の魔法を極めたとして、あらゆる魔導書に乗っている魔法が使えるとしたらどんな攻撃をする?」
「えーと……まず上級魔法のミリオンフレアで相手を取り囲みます」
……なんだその魔法。
「相手の周囲に大量のファイアボールを浮かせて包囲する魔法なんですけど、それで牽制しながら本気の一撃を混ぜながら大技で焼き尽くします」
「うん、じゃあそれをやられた時、どう動く」
「えっと……まずは包囲網から抜け出そうとします」
「でも逃げられない」
「なら回避しながら死角を防御して包囲網から……あ、いや、違うのか……」
お、気付いたか。
なかなか優秀ね、頭の中で戦場を想像しただけで思いつくか。
ぬるま湯しか知らない坊ちゃんお嬢ちゃんの集まりだと思っていたけど見直したわ。
「魔法使いが相手なら接近した方がいいんですかね。懐に潜り込めば包囲網は実質意味を成さなくなるから……それに相手の大技も封じられる……」
「そう、今は炎に限定したからそういう発想になったけど氷の魔法だったらまた別の対処があるでしょ」
「確かに……炎と違って逆に近づくのはまずいです」
「うん、だからバリエーションを増やすことで自分の知識の幅も広められる。そうすると戦術も広がって、そして相手がどんな動きをしたいのか、何を防ぎたくて何をされたくないのかがわかる。これが経験から学ぶ戦い方よ」
「おぉ……」
どよめきと歓声、なかなか気持ちいいわね。
まぁ……私そんな戦い方しないでまっすぐ行ってぶっとばすだけだから関係ないんだけどね。
「さすがフィリアさん、伊達に高レベルじゃないっすね」
……ごめんねゲリさん、これ他のゲームで教官NPCが言ってた台詞まるぱくりしただけなの。
よくファンタジー漫画で大量の火球浮かべて包囲するシーンあるけど、あれ普通に上級魔法とかそういう部類だと思ってるマン。
下級魔法は簡単でもそれを複数同時発動とか高度な技だと思うの。




