悪魔王からは逃げられない
さてさて、即行で事件解決となったのでゲリさんの帰りを待ちながらお茶を頂く。
ふむふむ……番茶に近い味わい、なかなか美味しいわね。
「それで英雄を呼んだという生徒の処遇だが」
「まぁ放任ってわけにはいかないでしょうね。被害者とは言いたくないから似たような言い回しをするけど、犠牲者が出ているから」
「うむ、故に今後その生徒は教員で保護して英雄に関する記述と論文をだな」
「ん?」
「今後は英雄に関する研究機関を立ち上げ、そこで活躍してもらおうと思っている」
「……まって、えーと、つまりその生徒を教授職に就けるとかそういうはなし?」
「教授とは言わんが研究職として働いてもらうことになる。形式上は卒業という扱いだな。少なくとも英雄を召喚したものを学生という区分におさめるのは無理がある」
「おとがめは?」
「なぜ咎める。この学校は実力主義だ。その生徒がいじめを受けていたのが実力不足だというならば、英雄に殺された犠牲者もまた実力不足。日頃の行いが返ってきただけであろう」
「そりゃまあ……そうかもしれないけど」
なんだろう、もう私の知っている常識とかそういうのの外側であれこれと話が進んでいく。
はっきり言ってついていけない領域だわ。
「この学校は入学から卒業、就職から退職、通学に通勤、学校での活動といった全てが実力主義だ。それができないものは不要、唯一のタブーは他者の研究結果を盗むことだ」
「あ、そこはダメなんだ」
「当たり前だろう。盗んだ研究結果から発展などない。研究を続け、そして成果に辿り着いたものこそ次の段階に進むことができるのだ」
「ちなみにその罰則は?」
「実践講習の的だ。毎年数ダースの生徒と教員がその刑を受けている。むろん死罪扱いなので死ぬまで的になるわけだがな」
わーお……過激ね。
もうちょっと使い道ありそうな気もするんだけど……。
「実験体とかにしないの?」
「するぞ。実験中の回復薬などの投与とかな。しかし死んでからアンデッドとして蘇らせてからも同じことはできる。故に魔法の威力実験に使われるのが規則だ」
「恐ろしや……」
たぶんあれよね、磔にされて魔法で撃たれ続けて、死にかけたら研究中の回復薬飲まされて、そこで回復して副作用が無ければよし。
副作用が出たり、回復しなかったらご愁傷さまってやつ。
私も同じことやられたけど、あれ結構きついのよね。
私の場合魔法じゃなくて銃弾だったけど、迫りくる弾が見えるのも、それが体にめり込むのも結構怖い。
貫通させないように力を入れているから疲れるしお腹減る。
そして謎の薬を投与されて、身体の反応からどんな薬使われたかを確認してから自力で解毒しなきゃいけない。
三日三晩、助けが来るまでそんな生活をしたせいでお腹が減りすぎてそのまま敵の基地に乗り込んで全滅させて食料奪い取ったのはいい思い出だわ。
思い返せばあれもナイ神父からの依頼だったわね……。
あの人関連は本当にろくなことにならないわ。
「いきなり食べるとか酷いっすよ……」
「あ、ゲリさんおかえりー」
「はいはい、ただいま。そんで、何話してたんすか?」
「んーとね、人体実験と処刑について」
「こわっ! なんでそんな物騒な事を……」
「かくかくしかじかいあいあくとぅるふということで」
「わからないっすよ……」
「まぁ、そんな大した話じゃなかったってことよ」
「うむ、ローゲリウス王が知ったとしてもどうにもならん話だ。当校の理念とルールだからな」
「……おうち、かえりたいなぁ」
ゲリさん、その願いはもうあきらめた方がいいわよ?




