シリアスだと思ったか? とかげ食いたかっただけだよ
「私、魔法なんて感覚でしか使ってないから理論とかわからないけど?」
「使えるならばそれでいい。極められた魔法の威力、先ほど見せてもらったがドラゴンすら一撃というその技を生徒に見せてほしい。そしてやはり特筆すべきは実践講習の際に見せた動きだ。アレに慣れたら生徒の実力も上がるだろう」
「まぁ……確かにあの程度捌けなければ生きていけないでしょうし」
「なにより君のもたらしてくれる素材の数々は我々にとって有益だ。こちらには金銭が乏しいが、対価として用意できる素材や研究成果などがある」
うーむ、たしかに面白そうだとは思う。
お金よりもそっちの方がいいしね。
お金腐るほど持っているからいらないのよ、今でも地獄からお金が定期的に振り込まれてくるから。
色欲の悪魔系列からの税金が凄いレベルで溜まっていくのよね。
あの人たちめちゃくちゃ稼ぐのに、お仕事が食事を兼ねているからお金に興味がないのよ。
「まぁ……そういうことならいいけど、私もゲリさんも旅が主体だからここに定住はできないわよ?」
「構わない。そしてそんな特別講師の二人には早速依頼したいことがある」
……いやな予感がしてきたぞ?
「先日、奇妙な殺人事件が発生した」
「物騒ね」
「大量の血の跡と共に被害者は全員行方不明、共通点はとある生徒をいじめていたというものだ」
「そのいじめは放置してたの?」
「この学校の理念は弱肉強食だからな。それに生徒が何人いると思っている、一個人に手助けをしているほど暇じゃない」
「胸糞の悪い話ね」
いじめられた経験がある身としてはつい顔をしかめてしまう。
「そうは言うが、実際のところこちらも困っていてな。その生徒はアリバイが完璧だ。対して被害者は……」
「被害者という言葉を使うのはやめなさい。いじめっ子なんてのはどこまで行っても加害者よ」
「気に障ったようならば訂正しよう。失踪者たちは素行こそ悪かったがうちではなかなかの実力者だった。犯人を捜してほしい」
「探して、どうするの?」
「どのようにして学校の警戒網を潜り抜け、そしてどのようにして死体を処理したのか聞きたい」
……人命よりも手段なのね、ただしくマッドサイエンティストってところかしら。
まぁ、犯人の目星はついているというか……既にその犯人から話聞いているんだけども。
「うん、まず最初に言っておくことがあるとして私は関わっていない」
「当然だろう、事件が起こったのは君が来る前だ」
「だけど私の関係者ではある」
「……なに?」
「英雄、この大陸を闊歩しているようなのじゃなくて世界から認められ座に届いた伝説上の存在をあなたは信じる?」
「伝承に出てくるあれか。先日の戦争でもその手の英雄が加担したという話を聞いたが……まさかっ」
お、察しがいいわね。
「そのまさかよ。英雄は行動理念があって、そこには理由が存在する。私も英雄として認められた身だけど、その際に私の魂をコピーした存在が英雄の座に就いた。その名も穢れた英雄」
「穢れた英雄……」
「自由を信条とするのに不自由な枷をつけられている、というのが本人の話。言いかえるなら自由を求める声があれば行動できるんだけど、それ以外の場合は待機を命じられているってこと。基本的なスペックは私と変わらないけど生まれて間もないから私の方が経験で勝る分有利に戦えるかしら」
あるいは、NPCだから制限全部取っ払ってリミッター外してくるから不利になるかも、という情報は隠しておく。
「その存在がどうして……いや、そういうことか……」
「えぇ、まぁ被害者のいじめられっ子が自由を求めた結果でしょう」
「だがどうやって学園に……それにどのようにして死体処理を……」
「それは簡単、まずはこうやって」
影移動、近場の影に潜り込んで短距離だけど転移する。
「なんと、転移魔法……それも特定の場所ではなく自由に移動できるなど失われた秘術に等しい」
「そんでもってこう」
ゲリさんの羽を掴んで、そのまま一口でガブリ、ゴクン。
「死体を食べたか……」
「そのくらいはできる子よ。まぁ死にたくなければ深追いはしないことね」
「そうしよう、相手が英雄では……さらには君の分身とあっては歯が立たないだろう」
「そういうこと。それじゃあ講師らしい仕事を始めましょうか。……ゲリさんが戻ってきたらね」
うん、食べちゃったからリスポンしてるでしょ。
帰ってくるの待たないとな……。




