とかげ、実は主人公タイプ
「まったく……なんで俺今日だけで3回も死んだんですかねぇ」
「運が悪かったのよ」
「悪かった⁉ ちっともよくなってない! 少なくともギルドには仲間がいたんだ!」
「国王がこんなところで死ぬの?」
「俺はあらゆる人物を運んできた。なのに国王になってからはろくに出歩くこともできない! くっ!」
ゲリさんが近くにあった机を蹴り飛ばす。
それ、子犬君の机なんだけどなあ……さっきの魔法でおもらしした子犬君は着替えに行ってるからいいけどさ。
「国王なんかなるんじゃなかった……タクシーギルドのリーダーでいたかった!」
ぽろぽろと涙を流すゲリさん。
「毎日夢を見るんです……砂漠で落とした人を探す夢を……」
「立ちなさいゲリさん……」
「フィリアさん!」
「あなたは自由なのよ。今だってこうして好き勝手に出歩いて死んでいるじゃない。というか割と好き勝手に動いてるって聞いたけど? タクシーだって現役でやってるし、英雄のレベリング手伝ったりして充実してるらしいじゃない」
「あ、ばれました? いやまぁそうなんですよ。最近は若手育成にはまってましてね、こっちはレベルも低いから海はキャリーしつつ、新規飛行系化け物でプレイ始めた奴らに手を貸してます。もちろん相手の意思にゆだねて離脱も自由ですけどね」
「へぇ、結構エンジョイしてるじゃない」
「会社だと糞喰らえとしか言えない後輩もいるんですけどね、SEなのにPCの電源落とし方知らないとか。でもゲームだと知らなくて当たり前の知識が多いから伝授するにしても楽しいんですよ」
それは……どうなのかしらね。
うん、ゲーム知識って確かにかなり狭い世界のものだから調べないと出てこないでしょう。
特に化けオンは閉鎖的な側面を持っていたし、種族の組み合わせとか考えると無限に出てくるからキャラ構成や育成法なんかも変わってくる。
最序盤に何をしたらいいのか、そこから何をしたらいいのかというのはもうひとそれぞれ。
一部界隈じゃ私が開拓したルートをなぞるのがテンプレなんて言われているけど、それにしてもだいぶ面倒な道のりになるから別のやり方の方がいいなんて声もある。
結局人それぞれであって、せいぜいが特定の有名種族に関する情報を与えてあげる事しかできない。
……あぁ、だからゲリさんこっちに連れてきているのか!
化け物プレイヤーは基本的なステータスは高い。
それこそ人間プレイヤーや、英雄プレイヤーに比べても頭一つ抜けている。
つまりこっちだと低レベルの化け物プレイヤーをカモにして乱獲することができないんだ。
だから英雄の大陸でレベリングとお金稼ぎしているのね……なかなか侮れないわね。
「ちなみに今の所離脱者は0人、アットホームでフレンドリーなギルドです」
「ブラック企業の常套句よねそれ」
「割とマジでうちはまともだよ? なんかあったら検証班に売り飛ばすぞって脅し文句が効いているっぽい」
「あー……それは怖いわね」
私で言うところの祥子さんにばらすぞくらい攻撃力がある言葉だ。
このゲームで敵に回しちゃいけない人ナンバーワンなんじゃないかしら。
情報戦は恐ろしいからね……。
「さらに言うと俺がちゃんと人見て判断しているから。結構鋭いんですぜ俺の勘って。共感覚って言って音とか文字に色がついているように感じるアレ、人に対しても発揮されるんすよ。色分けで自分に合わない人とかそういうのわかるし、類似性のある色同士なら仲良くなれる傾向にあるんで」
「へー、例えば?」
「苦手な人は寒色に感じる事が多いっすね。想像性豊かだけど自分で作り込むタイプで一直線の職人タイプは青、似たような想像性を持っているけどインプットして作るタイプは赤って感じです」
「ほほぉ、ちなみに私は?」
「黒」
「は?」
「黒色っす。良くも悪くも他の色に染まらない一直線の猪突猛進型。突拍子もないことやらかすけれど本人は結末まで計算し尽くしているタイプ。ついでに言うならプライドが高くて、相手からも自分からも付き合う相手をえり好みするタイプで、運命の出会いでもない限り恋仲に進展することはないっすね。真逆の色で白がありますけど、こっちは染まる染まらないじゃなくて雪原のイメージです。誰も足を踏み入れてない、踏み込むことすらおこがましいと感じる清廉潔白。ただ本人がどうこうじゃなくて、その人の精神性に高貴な部分がある感じで……なんていうのかな。芯が一本通っているタイプです。また考え方が柔軟なのでいろんな人と仲良くなれるタイプですね」
「へぇ……つまり私には恋人ができず、選り好みされて、売れ残ると?」
「そういう意図はないっすよ。俺としちゃ祖父と同じタイプの人はじめて見たので気になってたんです。まぁフィリアさんは……色恋には向かないと思いますけどね」
「……戻りました」
子犬君が戻ってくると同時にゲリさんの首をねじ切った。
それを見た彼はその場で下半身から全てを放出して再び着替えに向かうことになったのだった……。
雉も鳴かずば撃たれまいに。




