バンダイさん許してクレメンス
「そうね、残り3分……ちょっと追加ルールでも用意しましょう。お兄さん、インクちょうだい」
「受け取れ」
お兄さんから投げられた黒インクの入った瓶を受け取る。
それを指に塗りたくってと。
「これからあなた達の額にバツ印をつけます。全員がバツ印つけられたら負け、一人でも残れたら勝利よ」
「くっ……」
「というわけで新技の練習も兼ねるから、死んだらごめんね?」
まずは脳細胞から……私の使えるビームは基本的に体液を使っている。
それをエネルギーとして放射するのがいつものビームだ。
なら、これを純粋なエネルギーとして利用したら?
「目が紅く……」
誰かの声がやけにスローに聞こえる。
けれどまだ本領はここから、脳に回す血液をエネルギーに変換した事で私の見る世界はゆっくりとなり、そして普段よりも反応が良くなる。
なら、こういうこともできるわけだ。
「蔦が……手に……?」
リアルではこうはいかない。
もうちょっと面倒な手段で腕を増やす必要があるし、とても疲れるけれどこれはゲーム。
普段は触手として鞭のように使っていた蔦を束ねて腕にする。
名付けてエクストラアーム、略してEXアームよ!
まずはこの状態でどこまでできるかだけど……。
「ど、どこに!」
「ここよ」
指揮をしていたであろう少年の額にバツ印を書く。
同時に残りの腕で周囲の生徒たちにもバツ印をつけていく。
ふむ、悪くないけど増やした腕の操作に手間取るわね、反応が知覚するよりも遅れている感じがする。
ならば今度は全身の血液をエネルギーに変換。
肉体そのものをエネルギーにすれば自爆になるけれど、体内の血液だけをエネルギーにすることで発揮できる高速戦闘。
名付けて、トランスアーム!
これにより私の肉体は通常の三倍の速度を出せる。
想定外な事と言えば……エネルギーに変換した血液が外に漏れだして赤い光になっているってことかしら。
こうして8割の生徒にバツ印を付けたけれど、まだちょっと反応が追い付かないわね。
これは私の処理能力の問題かしら。
だったら……全身の細胞を活性化、骨髄で作られる細胞を全て脳細胞に変換することで私の全身が脳みそのように高速演算ができるようになる。
つまり考えると同時に動くことができる思考と反射の融合!
名前は……思いつかないからなんとかなるでしょシステム!
「さぁ、いくわよ?」
生徒たち、そしてお兄さんにも私の姿が消えたようにしか見えなかっただろう。
私もあまりの速度に驚いた。
さっきまでのトランスアームが通常の三倍ならば、この状態だとさらにその三倍はいく。
やばいわね……これ、たしかに能力の底上げとしては十分だけど相当疲れる。
しかも脳細胞同士が反発しているのか、私が別の意思に飲み込まれそうになる。
そうならないためには……手っ取り早く片付けるだけ!
「ラストぉ!」
最後の一人にバツ印をつける。
これで完了、当然魔法とか飛んできてたけど当たらなければどうということは無いのよ!
「さて……これで実力差がわかったかしら?」
トランスアームにエクストラアーム、そしてなんとかなるでしょシステムを解除して一息ついた瞬間眩暈に襲われた。
しまった……そりゃそうだ、今までこんな使い方したことなかったもの。
副作用があって当然よね……具体的には体内の血液を大量にエネルギー変換したから貧血。
目算だけど7割くらいエネルギーに変えたわね。
それから新しく作り出した脳細胞の活性化による情報料の処理速度の高速化の弊害、色々強化している間はいいんだけど、こうして通常の状態で活性化させると入ってくる情報量が多すぎて結構きつい。
とりあえず聴覚と嗅覚と視覚の8割をカットして……よし、これでどうにかなるわ。
さすがに感覚狂うから触覚はそのままにしているけど肌に触れる衣類の感覚がこしょばゆい。
最後に一番の問題、お腹減った!
カロリー使いすぎるわこれ……。
情報処理に肉体能力の向上、それに合わせた筋肉や血管をガッチガチに固めてガードするからすごく疲れる。
その結果めちゃくちゃお腹減る。
普段意識していない筋肉とかもがっつり固めてるから動きも直線的になるし、気を使うしで結構デメリット多いわね……。
今回みたいな未熟な相手複数人とか、あるいは強敵と一対一だったら使い道あるけど普段は封印安定の技ねこれ。
「ふぅ、さぁこれから反省会の時間よ。みんな筆記用具の用意はいい? 用意したらそれを捨てて身体を動かしてどういう動きをすればいいか実践よ」
やせ我慢をしつつ、さっき流れ弾で倒したゲリさんの素材を齧りながら生徒たちに向けて声を発する。
……いかん、リアルでお腹減ってきてるわこれ。
手短にしないと空腹で動けなくなるわね。




