行けちゃったよ、なんで?
そんなこんなで町に突撃。
手筈通りに私を囲むように聖属性に強い人たちがいて、私は町に入ると同時に邪悪結界を発動。
これで勇者や聖女の範囲聖属性攻撃を受けても問題ない。
「ひゃっはー、人間は皆殺しじゃー」
物騒なことを言いながら突撃していく人たち。
「鴨がネギ背負ってきたぜ! 返り討ちにして素材採取じゃ!」
さらに物騒なことを言って応戦する人間プレイヤー。
うん、人類は愚か……。
「じゃ、手筈通りに」
「あいさー」
町に入ってしばらく突撃して、途中でわかれる。
私は単独行動で、他の人は各々勝手に動く。
勇者パーティをおびき寄せる人もいるけど、早々に負けたという内容のフレンドチャットがとんできた。
どうやら四人でパーティを維持しながら行動しているみたいで、誰か一人を撃破するのも難しいらしい。
まぁ……そういう相手だもんね。
ついでに情報としては魔女さんが闇属性魔法も使えるらしく、範囲攻撃で蹂躙されたらしい。
本当に厄介ね、まぁ攻撃力が高いだけで防御面はお察しというのが魔法使いの鉄則だけど……運営がどう考えているかよね。
化け物になるんだから人間はそれほど強くない、セオリー通り防御面もガバガバか、あるいは化け物を倒す英雄が弱いわけないと防御もガッチガチか。
前者なら隠密で暗殺という手段もあるけど、正直敵対したくないわ。
いかんせん炎の範囲攻撃撃たれたら負けなんだから。
聖女様に関して言えばこっちは他のゲームだと僧侶、あるいは僧兵ってところかしら。
防御面も固いし、回復するとみるべきよね。
少なくとも神様関連の相手とか、化け物にとっての天敵なんだから弱いとみるのがどうかしている。
勇者も同じく危険人物として認定、もはや語るまでもない。
暗殺者っぽい人は斥候職かな、他のゲームで言うシーフみたいなの。
なんでもできるけど器用貧乏になりやすい系か、攻撃特化のアタッカーか。
アタッカーと考えると攻撃力に極振りしたパーティよね……漢探知、罠とか関係なくずかずか突き進んでいくタイプの探索をしているわけじゃないでしょうしそれなりに器用な方と考えるべきかしら。
もちろん戦闘力がないと侮るわけじゃないけど。
「お、餌発見」
屋根伝いに隠れながら移動していると一人で行動しているプレイヤーを発見。
単独行動は死亡フラグと学ばなかったのかな?
さっそくドライアドの触手を伸ばして首を掴み、そのまま吊り上げる。
ふははは、苦しかろう、今楽にしてやる。
心臓を一突きして光の粒子になっていくのを確認してからすぐにその場を離れる。
プレイヤーはフレンドチャットで敵の居場所とか、何やられたかを報告出来るから厄介なのよね……。
まぁ今の私は色々隠している。
裁縫師のプレイヤーが作った粗雑なマントで正体を隠しているから、一目で弱点が炎だとばれることはない。
ドライアドの触手を体に巻き付けて、翼も体にべったりと密着させている。
ちょっと着ぶくれしているように見えるけど遠目には顔色の悪い人間に見えなくもないかな……いや、やっぱり見えないわ。
どうやっても化け物側のプレイヤーだわ。
まぁ弱点が隠せるならそれでよし。
屋根の上を飛び跳ねながら次の獲物を探す。
不意に目にとまったのは一人のNPC、黒ずくめの服装で目を閉ざしているそれは紛れもなく堕ちた英雄さんの姿だった。
なんで町中に? と思ったけどゲリさんと町中で会った時もいたっけ。
多分イベントと無関係のNPCに攻撃したりした相手をさくっとやっちゃう系のお仕置きなんでしょうね……気を付けよう。
とか思っていたら倒しても良さそうなの発見!
……ん? あれもNPCみたいだけど敵対アイコン出てる。
まぁいいや、なんか司祭みたいな服装してるけど後ろから近づいてさっくり。
そのまま離脱して、次の標的を……とはいかないみたいね。
「そこまでだ魔の者!」
勇者一行に出くわしてしまった。
実に運が悪い……。
「助太刀するぜ!」
そう言って現れたのは化け物プレイヤーさん、とそれが引き連れてきた人間プレイヤー十数人。
帰れと叫びたくなったのをこらえて、戦闘に集中する。
邪悪結界の残り時間は5分弱……どこまで行けるかわからないけれど勝負のタイミングは今みたいね。
狙いは聖女、勇者の剣が発する光を無視してそちらに突進するけれど聖女様はさすがの身のこなしというか、レベル20だけあって的確な動きで私の一撃を躱す。
でもね、狐に比べたら遅い。
そしてぎりぎりで躱したのもダメだったのよ、突き出した左手を横なぎにふるう。
それだけで聖女の首に切り傷が生まれる。
肉質も固いけれど、やっぱり狐ほどじゃない。
人間にしては頑丈なのかもしれないけれどその程度、そう思った瞬間聖女が発光して傷がふさがる。
なるほど、これが回復か。
「だけどね?」
敵の目の前でそんな回復をして、すぐに次の行動に移れるのかしら。
答えは否、狐火の時に知ったけれど魔法の発動直後は明確な隙ができる。
おそらくレベルを上げていけばその隙は緩和されていくのだろうけれど、狐との戦いでレベル13まで上がった私の前でそれは悪手。
7レベルの差がどれほどかと言えば、人間と化け物では同格になるくらいと言えばわかるかしら。
4人を同時に相手取るとなれば厳しい、というか確実に負けるんだけど一人を絶対に殺すという意思で動けばこちらも憂いなく、ためらいもなく動ける。
隙を晒している聖女の胸元、心臓を貫き手でつかみ引きずり出す。
「ふふっ、まず一人」
化け物らしさを演出するために血の雨を浴びてにやりと笑みを浮かべる。
このゲーム、AIがかなり優秀みたいで恐怖の感情とかも煽れるから演出は大切。
勇者は呆然とした様子だけどすぐに怒りの感情をにじませてこちらをにらんできた。
魔法使いはわかりやすくおびえているわね。
感情一つ動かさない暗殺者さんはさすがというべきかしら……。
「狐火」
さて、せっかくだからちょっとしたブラフ。
そして今後のためにやった方がいいとされていた行動をとる。
狐火は前述の通り私にもダメージが入るけど、それは外からは見えない。
私が明確な痛みを受けて、それをダメージと認識、服の下で軽いやけどを負っていたことから確実と判断した。
実際今回も痛かったし熱かった。
だけどそれだけ、聖女に狐火を落として遺体を燃やす。
仮に蘇生魔法みたいなのがあったとして、復活されたら厄介だからね。
だから跡形もなく消し飛ばす。
もともと私の種族特性的に魔法も相当強いみたいなんだけど、覚えている魔法が夢魔の夢渡という寝ている人の夢から夢へ移動するだけの魔法なのよ。
レベル10になった段階で夢喰らいという、寝ている人からのドレインによる吸収量を増やす魔法を覚えたけど使ったことがない。
だってプレイヤーは寝落ちすると勝手にログアウトするから。
NPCに使う機会があるんでしょうけどねぇ……あとは死者呪転と呪魂摘出くらいかしら。
あ、それで聖女蘇らせたり魂奪ってもよかったかも。
まぁレベル差でだめかもしれないから燃やしておくのが得策かしら。
「ミレイ! 奴は炎を使う!」
「わ、わかったわ!」
勇者の言葉に魔法使いが詠唱をはじめ、勇者と暗殺者が同時に攻撃を仕掛けてくる。
これはかかったかしら?
聖剣の攻撃は当たりたくないから避けて、暗殺者の攻撃も毒がありそうだから避ける。
とにかく避けて、魔法使いがそれを出してくれるのを待った。
「ウォータースピア!」
魔法を叫びながら発動した魔法使いさん、それもしっかりこっちの誘導に乗っかってくれたわ。
狐火を使ったことで火属性と誤解してくれたのか私にとってはたいして意味のない水属性魔法での攻撃。
勇者と暗殺者を無視して魔法に向かって突撃、左肩をえぐり飛ばされたけれど魔法使いの首に噛みついて食いちぎる。
「ひっ」
痛みが遅れてきたのか悲鳴を上げようとする口を押えて、そのまま眼球を食いちぎる。
腕を嚙み、首を噛み、頭を噛み、すぐに死んだのを確認して狐火で焼く。
勇者パーティの半分を撃破、作戦は上々どころか大成功の部類だ。
けれどまだ問題の勇者が残っている。
え? 増援の人?
人間プレイヤー連れてそのまま通り過ぎていったわ。
通りすがりがそのまま通り過ぎた。
「貴様……よくもミレイとアマンダを!」
「我が同胞を殺した男がよく吠える……貴様の仲間とやらを殺した某と汝で何が違う」
妲己の口調をまねて挑発してみる。
まぁこれに特に意味はないんだけど、勇者は挑発に乗るだろうと思った。
けれど違った。
「レイン、今は引くべき。こいつはやばい」
「だが!」
「ここで無駄死にするつもり? 世界を救うんじゃないの?」
「くっ……」
暗殺者の言葉に勇者は剣を収めて引こうとした。
させるつもりもなかった。
背を向けた勇者の行く手を狐火で遮る。
体内から炎が噴き出るかと思うほどのダメージ、もう狐火はこれ以上使えそうにない。
だけどね、それはHPを回復すればいいの。
マスクデータになっているから確認できないだけでね、回復する方法はあるのよ。
「捕まえた……」
勇者の肩を掴む、そして間髪入れずにドレインを発動。
悪魔の簒奪スキルによって強化されている私を振りほどく力はないらしい。
邪悪結界の残り時間、12秒。
「ぐっ! くそ!」
振られた聖剣を受け止めるために手を放してしまった。
ざっくりと、骨まで達する一撃を受けてあちらは有利と感じたのかそのまま押し切ろうとする。
邪悪結界の残り時間、残り8秒。
確かにこのままでは私は浄化されて死ぬ。
左腕がなくなり、右腕も動かせない。
だけどね、隠し玉があるのをこいつらは知らない。
「無様ね……お互いに」
勇者の喉、胸、腹部、眼球に突き刺さるものがあった。
私の触手だ、ドライアドの種族と共に得たこの触手、それが確実に人間の急所を貫いた。
邪悪結界の残り、3秒……慌てて聖剣を振りほどくとその先に暗殺者が立っていた。
「………………名は」
「フィリア」
「覚えた、いずれ殺す」
そうつぶやいた彼女は聖剣と勇者の亡骸を抱えて走り去っていった。
私もこれ以上は無理だ、邪悪結界も切れて聖剣の残した光に当てられ浄化され、死に戻りした。
くっそ、あの聖剣ずるいわ。
勇者が持っていなくても抜き身だと聖属性ばらまくのかよ……あーもう、勇者の肉食べ損ねた!
あの暗殺者さんにも死体持っていかれたし……結局手に入ったのは聖女の心臓と、魔女の魔力というアイテム。
どっちもなんだかなぁという感じで、勇者からはドロップアイテム無し。
もしかしてあの状態でも生きてたとか?
だとしたら怖いわ……勇者怖い、近寄らんとこ。
そう考えてキャンプでふてくされていると花火が上がってファンファーレが鳴り響いた。
『コングラチュレーション! 化け物プレイヤーが勇者を撃退、町を取り戻したことで化け物プレイヤーにポイントが加算されます。なおこの後もイベントは続き、人間プレイヤーがポイント逆転のためのモンスターも登場予定です! 皆様引き続きイベントをお楽しみください! なお化け物プレイヤーと裏切り人間プレイヤーのリスポン地点が町中に戻ります。町中がセーフティエリアに戻ります。皆様の活躍、期待しております』
……なんか気が抜けたわ。
周りにいた人に一声かけてから私はログアウトした。
すっごく疲れたからね……偶然の遭遇とはいえ勝てるとは思ってなかったけど、狐との戦いの感触が残っていたからどうにかなったようなもの。
集中しすぎたせいか頭痛がするし、今日はご飯たっぷり食べて寝ることにしましょう……。
なんで勝てたのか作者もわかりません。
多分勇者パーティがファンブル連発してフィリアがクリティカルしまくったのでしょう。
なおレベル差問題は依然説明した通り人間は装備やアイテムで埋めるので、今のフィリアと勇者パーティが戦った場合装備や属性によるアドバンテージが無ければぎりぎり勝てるかどうかです。
ただしフィリアの行動が悉くうまくいって、勇者パーティの動きが悪くなっていました。
高性能AIの弊害です。
ちなみにフィリアじゃなくてもやわらかとかげなんかだったら町の結界内部からブレス吐いてたら勝てました。
勇者が認識する前に暗殺しても勝てますし、水龍さんが潜んでいた下水を爆破して町ごとぶっとばせばいいです。




