当然やべー奴らだよ
「おーい、これ確認してー。敵じゃないよー」
高らかに掲げるは英雄さんから借りたブローチ。
それを見せると攻撃はぴたりと止んだ。
……あんなに激しい攻撃してきたのに、あっさりと止まったわね。
遠視の道具か魔法でも使っているのかしら。
考えてみればそれなりに技術力のある世界なのよね、化けオンの基盤って。
大陸間を移動できるだけの船が用意できるなら羅針盤とか望遠鏡は必要でしょうし、そういった意味でもレンズ研磨の技術とかも発展しているのかも。
もしかしたら削らずに錬金術とか魔法で作ってたりするのかしら。
「確認した。妙な行動をすれば即座に殺す。門をくぐれ」
普通の話声なのになぜか耳に届いたそれを聞いて、言われるがままに馬車を走らせる。
カラカラギャアギャアと音を鳴らしながら門をくぐると、それはお城のような場所だった。
なんていうのかしら……こう、イギリスでぶち壊したお城に似ている感じがする。
あの時は拉致された先がお城だったから大暴れしたわけだけど……。
「そこで止まれ」
「はいはい、すごまなくても止まるからもっと落ち着きなさいって」
今度は普通に声をかけられた。
うーん、やっぱり魔法使いのスタンダードはローブなのかしら。
みんな同じようなの着てて見分けがつかないし、口元しか出ていないから表情が読めない。
声色から怯えの感情があるのはわかるんだけど。
まぁ大体わかるからいいか。
「敵じゃないよー」
「それはさっきも聞いた。もう一度それを見せろ」
「はいはい、このブローチね」
ポンと手渡したブローチを鑑定でもするようにまじまじと見るローブの男性。
うん、声から判断するに男性ね。
「間違いない……黄金の魔女ミレイのものだ……」
「おーごんのまじょ?」
「数百年前にこの学園を卒業した稀代の天才、貧しき者に富を与え、弱き者に力を与え、誰よりも優しく誰よりも強かった魔女だ。これをどこで手に入れた」
んー、これ正直に話しちゃっていいのかしら……。
なんかすごい英雄視されているからなんて答えるのが正解なのか……。
素直にぶち殺したらその後釜になった英雄さんが貸してくれました、なんて言ったら敵対コースよね。
経験上知ってる。
将軍の首もって「ごめーん、排除してきちゃったー」とかやった時はマジで殺されそうになったことがあるから、リアルで。
でも……うん、下手な嘘は逆効果ね。
「話せば長くなるから端的に言うわ。数百年前に彼女と戦った、そして私が勝った。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「……嘘はついていないか。ならば我らはミレイの仇と対面しているわけだ」
やっぱり失敗だったかしら。
「来るがいい。かの英傑をうち破った魔の者、歓迎しよう」
「え……?」
「何を驚く。ここは魔法を学ぶ場、そして魔法使いの最高峰である黄金と魔女の名を同時に有する魔女に勝利をもぎ取った相手を歓待するのは当然だろう」
「なに、その武士理論」
「ぶし、とやらはよくわからんが……魔法は力だ。それを打ち破ったのならばその方法を知り、そして新たな力へとするのが我らの義務。それにお前とて魔法を使う身だろう」
ピッと指さされたのは腰に吊るした魔導書。
まぁ使うけど……本格的に使うようになったのは最近のことなのよね。
それに魔法って結構使い勝手が悪いから……うーん。
「なにやら思うところがあるようだな。だが関係ない、お前の魔法を見てみたいという好奇心もある。それと……これは返しておこう」
先ほど手渡したブローチを返される。
あら、結構律儀。
これはうちの学校のものだーとか言って取り上げられるかと思った。
その時はまぁ……盗み出すわね。
暴れる意味もないし穏便に。
「さて、ではついてこい」
「はいはい。あ、そうだ、こういうの買ってくれたりする? お金じゃなくて物とか知識とか実験動物でいいんだけど」
ロストガンをちらりと見せると雰囲気で目を見開いたのがわかった。
あ、これちょっとやらかしたかも。
運営さんの前で新技披露した時のあれと同じ空気だ。
刹那さん、ブローチ掲げる時サラッと回避しまくってます。
キメラ馬車はあれ、フェイズシフト装甲みたいなもんだから……。




