無下に扱われない?本当にござるか?
「今から幾星霜も昔のこと、我と奴らはともに旅をしていた」
「ごめん、その話長くなる?」
長くなるならお茶でも淹れようかしら。
「……魔の者に支配された街を取り返すべく奮闘したが、蘇った汝によって我らは敗北した。最後の力を使い取り返した魔女と聖女と勇者の力を手に、我は今の姿になった」
「うーん……?」
えーと、えーと……カンニング!
明鏡止水で記録にアクセスして、今の話を解析してみよう!
………………どれだ?
…………あっ、これか、最初のイベント!
あぁ、あの時の暗殺者さんが英雄さんなのね。
ふむふむ、つまり……あのイベントは現代よりもはるか昔の出来事だった?
「えーと、随分前に倒した勇者一行にいた?」
「あぁ、一度目は圧勝だったがその後攻め込んできた汝らにかく乱され、そして一騎打ちになった際には……」
「ド派手にやったのだけは覚えてる」
妲己とあったばかりの頃だから邪悪結界の持続時間も短かったのよね。
あ、なんか運営からお知らせ来た。
【世界の謎に触れたプレイヤーが現れました。これよりこの世界の歴史の一部が公開情報になります】
……謎ねぇ。
正直謎が多すぎるとは思うけど、それに関してどうこう言うつもりはない。
突っ込んでたらこっちが持たないから!
「ちなみに、その時の魔女さんがこれの持ち主?」
「そうだ。あれは魔法学校を首席で卒業し、国に見出され勇者一行として名をあげていた。その名が後世に伝わるほど大きくなる前にどこぞの化け物に殺されたがな」
「それはご愁傷様」
「……汝」
「いや、殺すんだもの。殺されもするでしょ? 戦場で殺し合った相手がどうのって恨み言をぶつけられてもそれ以外に返す言葉がないわ」
「……そうだな。しかし思うところがないわけではない」
「と、いうと?」
「あの者は生きていれば誰よりも英雄らしい魔術師になっていただろう。それだけにあのような些事で……国の威信などというくだらないもののために命を落としたとあってはな」
「あー、それはたしかに……」
国の誇りとやらで惜しい人材が失われていくのはよく見る光景。
それ以上に政治家の威勢のいい政策やらで人材を流出させまくった末路だって見てきた。
そう思うと他人事とは思えないわね、手を下したの私だけど。
「どんな人だったの?」
「女らしくあり、魔術師らしくあり、英雄たらんとして、誰よりも人間らしい女だった。恋に飢え、知識に飢え、いずれは己の知識欲に焼かれると知っていながらも突き進んだ哀れな女だ」
「哀れねぇ……私からしたら誰よりも自由に生きているって聞こえるけど?」
「汝の耳が悪いだけだ。あるいは頭か」
「私、爆発音鳴り響く戦場で薬莢の落ちる音も聞き分けられるけれど?」
「ならば頭で確定だな」
「100桁の掛け算暗算できるけれど?」
「ならば性根だ」
「それは否定できない」
「だろうな」
うーん、なにやら英雄さんが饒舌。
やっぱり昔の仲間ってそういうものよね。
私もふとした時に昔の仲間のこと思い出すし。
具体的には高校生の頃修学旅行でアメリカに行こうとしたらハイジャックにあって、友達が実験体にされかけた時に一緒に大暴れしたクラスメイト。
なぜか日本で実銃持って下駄箱爆破とかしてたけど元気にしてるかしら……。
風の噂だとどこかの傭兵としてバリバリ働いているって聞いたけど。
「それよりもそのブローチは魔法学校の卒業生が持つ物。無下に扱われることはないだろうが重々注意せよ」
「ありがたく受け取っておくわ。それで学校の場所は?」
「ここから北東に3000㎞といったところだ。汝ならばたいした距離ではあるまい」
「そうね。だけどのんびりと行くことにする。彼女のお仕事もあるでしょうしね」
くいっとコピーを顎で指してみると英雄さんは肩をすくめ、そして影の中に消えていった。
まったく、せわしないこと。




