悪魔みたいな女だな……悪魔王だったわ
イベント開始と同時に転送された先、そこは真っ黒な砦だった。
そして書かれている「Welcome Chaos Team」の文字。
なんで……なんで品行方正な私がカオス陣営なのか、これがわからない。
運営に文句言ってやろうかしら……。
「よう、あんたもカオス陣営か? どんな悪さしたんだよ」
「は?」
「はじゃねえよ。相当な悪党じゃなきゃニュートラル行くはずだぜ。俺のフレンドもそっちにいるらしいしな」
「……そんなに悪いことしてないと思うんだけどね。むしろいい事しているはず」
「自覚がないってことは性根から腐ってるタイプの悪党か! こいつは最高だぜ!」
びきびきぃ……。
「ちなみに俺は村を一つ潰してやった! こちとら英雄だってのに白い眼向けてきやがったからな、逃げ惑う連中をぶった切って回ったよ! ありゃ最高だったな!」
うわぁ……なんてひどい人なのかしら。
英雄プレイヤーは素行が悪いから、NPC間での評価が最低値にある。
それこそ化け物プレイヤーよりちょっとマシ程度の扱いで、積極的にかかわりたくないって人が多いってゲリさんの国の人が言っていた。
ちなみに化け物プレイヤーの扱いは相対評価で上方修正されているっぽい。
なんかね、迷惑な英雄プレイヤーと戦う化け物プレイヤーって感じの流れらしいわ。
どっちが化け物かわかったもんじゃないわね……。
「しっかし、交流とか言ってる割に化け物すくねえな。あんたも英雄だろ?」
「え? 私化け物プレイヤーよ?」
「いや、どう見ても人間なんだが……なんかの偽装か?」
「偽装……あぁ、この装備余計な部位隠してくれるのよ。ほらこの通り」
装備で隠れていた蔦や羽を広げて見せると目の前のプレイヤーは驚いた様子だった。
周りのプレイヤーなんかは驚きすぎて腰を抜かしたり、武器を向けてきたりしている。
それを手のひらで敵意はないから散れと意思表示してみるとすぐに混乱は収まった。
「おどろいた……マジで化け物なんだな」
「といってもそんなに強くないから期待しないでね? 戦闘は嫌いじゃないけど、すき好んで暴れたいって気持ちも萎えてるから」
「はーん、随分と殊勝なこった」
いやー、装備で諸々隠れてるの忘れてた。
しかしそうか……ぱっと見だと私が化け物だと気付く人は少ないんだ。
装備の関係でプレイヤーだとか、海を渡ってきたとかばれるとしてもそこはわからないのね。
それにしても……うん、見渡す限りごろつきみたいなのしかいないわね。
「ねぇ、ここにいる人達みんなあなたみたいなの?」
「あ? どういうことだ?」
「NPCもプレイヤーも関係なく狙うような、端的に言うならゲーム内で嫌われ役を買ってる人?」
「まぁそうだな……基本的に仲良しこよしなんて糞喰らえって連中しかいねえよ。あそこで腕組んでる女はPK専門でやり方はパーティに紛れ込んで後ろからざっくりと。そっちの木陰で肉齧ってる奴は暗殺専門で依頼さえあれば誰でも殺す殺し屋ロールプレイ。テーブルで腕相撲やってる筋肉だるまは敵味方関係なく暴れまくるバーサーカーだ」
「へぇ……つまりなるべくして成った、カルマチームってことね。面白いじゃない」
ロウになると思ってたから立ててた作戦は全部破棄することになったけど、それでも面白いやり方を思いついたわ。
いいわ、目にもの見せてやろうじゃないの……。
「あー、あー、全員注目!」
声を張り上げる。
そして蔦と羽を出したまま、軽く飛翔してからカルマプレイヤーを見渡した。
全員が、というわけではないけれどこちらに注目している。
一部は見向きもしていないけど興味は示してくれているわね。
「私も、あなた達も、嫌われ者として集められたチーム。けれどチームなんて言葉は嫌い、そうじゃない?」
静まり返るカルマ砦。
けれどいい、反論一つ起こらないというのは……まぁ少し不安な状況ではあるけれどこちらにとって話が通るならそれで十分。
彼らがやりたいようにやって、そしてこのイベントで本当のチームとなってもらえればいい。
私は勝つ事よりも、遊ぶ方が重要だからね。
「あなた達の遊び方を運営は悪行と呼んだ。あなた達の遊びをいい子ちゃんも風見鶏も否定した。なら……」
じっと視線が集まるのを感じる。
さっきまでは無関心を装っていた人すらもこちらに視線を向けている。
次の言葉を、それを待ち望んでいるかのように。
「糞共に最大の嫌がらせを。そして甘ったれた連中の喉元に刃を。日和見連中には地獄を見せてあげようじゃない」
邪悪結界発動、そのエフェクトは黒く揺れる陽炎のごとく私を包み込み、そして太陽を背にした私の姿は日の光を喰らう化け物に見えただろう。
……まぁ光合成はできるけど、今回は比喩表現でね!




