残念でもないし当然
リアルではしばらく平穏な日々が続いた。
地下の人達の扱いに関して他の国からクレームが来ることもなく、私も一緒になって農業を楽しんだりもした。
季節のフルーツなんかを植えたりしたんだけど、そうじゃないって怒られたりしながら一緒に笑い合ってお酒を飲みかわして……こうしてしがらみがなくなれば結構いい人たちだったわ。
マリッサさんについて聞いてみたところ、少々思うところはあるけど恨んではいないらしい。
むしろ夢にまで見た、というより夢見る事すらやめた平和な生活というものを体験できるようになったと軽快に笑っていたわ。
あの表情は嘘じゃなかったし、明鏡止水で心や世界の記録を読んでみたけどまごう事無き本心だった。
お次に公安関連だけど、辰兄さんのやらかしに対するフォローを捨てた。
祥子さんがね、いい人すぎたのよ……。
「さすがに人の命がかかっている状況で暢気に寝てられない!」
なんて叫んだ直後に私の端末が着信を告げた。
一会ちゃんとかが祥子さんに休むよう言ってた最中で、ぴたりと全員が固まったわ。
「よーう刹那」
「辰兄さんまだ生きてたの?」
「俺はこの世全ての生命体を愛するまでは死なねえぞ? それより国外に出られないんだがどうしたらいい? 飛行機に乗ったらハイジャック&ミサイルで、船に乗れば魚雷が飛んでくるんだが」
「他の人巻き込んでないでしょうね……」
「全員助けて無事に決まってるだろ。俺が愛する者達を死なせるわけねえって」
「はぁ……それで、今はブラジルから動けないのよね」
「あー、まぁそうだな。一応国を出る算段は付いてるが、ちょっと悠長だなと思ってよ」
「悠長? なにが?」
「いや、民間人乗ってる飛行機だの船だのにばかすか攻撃すりゃ軍もマフィアも政治家も、まとめて信用失うだろ普通。そしたら俺が助けた奴らの中に政治家の息子とかいてな、そいつらが一念発起して今の政権打倒しようとし始めてるんだよ。手助けしてるが、どうしてなかなか器用な奴らでうまくいきそうでな」
「国丸ごとひっくり返す気?」
「そんなつもりじゃなかったとだけ言っておく。ただ結果的にそうなってるからな……新政権が立ち上がれば今みたいなことも無くなるだろうから半年くらいで外に出られるだろうけど」
端末をスピーカーに切り替えて祥子さん達にも聞かせていたんだけど、頭を押さえた祥子さんがコーヒーを一気飲みしてゴーサインを出した。
一会ちゃんは今からブラジルまで走っていきそうなほど怒っている様子。
「半年、ブラジルでの生活を楽しみなさいだってよ」
「そうか、じゃあサンバでも踊りながらブラジルを俺の愛で染めて待ってるぜ!」
そう言って切られた電話、私と一会ちゃんは祥子さんを支えながら縁ちゃんの別荘と化しているシェルターに運び込み、そこでゆっくり休息をとってもらった。
その後一会ちゃんにブラジルと日本の往復チケットを渡して、煮るなり焼くなり好きにしていいと許可を出して放置することにした。
後日、せっかくだからと休みをとってうずめさんと修行した山近くの温泉で疲れをいやした祥子さんは語る。
「伊皿木家の心配とか無意味だって忘れてたわ……相当疲れてたのね私」
やはり無理のし過ぎはよくない。
ちなみに一会ちゃんは辰兄さんの全身の骨を折らずに曲げてマフィアに差し出してから帰ってきた。
その日の夜に辰兄さんから「一会に伝えておいて。あんまり意地悪するとお兄ちゃん泣いちゃうぞって」と電話がかかってきたのでマフィアは可愛そうなことになったんだと思う。
そして話を自宅に戻してマリッサさん。
最近は落ち着いて眠れるみたいで血色もよくなり、よくフレイヤさんと一緒に糞映画見ている。
なんと驚くべきことに今までサブカルに触れる機会がほとんどなかったとかで、糞映画にドはまりしていた。
……沼にはまった者がまた一人。
あの沼はね、一度はまると出られないから……セメントみたいに硬化する沼だから……。
とまぁあきらめの境地で二人の背中を見ながら自室に戻り、そして化けオンイベントを始めた。
そして叫んだ。
「なんで私がカオス陣営なのよ!」




