言いくるめ:クリティカル
「というかなんでここに封印されてたの?」
「妲己と同じでこれ仮初の肉体なんですよ。悪魔王と呼ばれる前に作った肉体は全て、全員が作った物が残らず封印されています。逆に神々やら美徳やらと呼ばれる者達が作った化身や媒介なんかも全部封印されてますね」
「封印ねぇ……」
「あ、ここの封印は大量の血肉と怨嗟で解けました。人間って愚かですねぇ」
「それは同意するけど、まだ完全じゃないように見えるわよ?」
完全復活してたらこの辺りは吹っ飛んでるでしょうし、英雄プレイヤーのレベルじゃどうあがいても勝てない。
それに加えてもっと悲惨な事件が方々で起こっているはずだわ。
「あー、いや、この肉体にはそれほどの力ないんですよ。せいぜいがそこの童女程度でしょうか」
キャシーを指さしながら答えるけど、それ充分強いわよね。
「それに封印そのものは解けたんですけどね。外に出るための道は全て封じられているんです。金庫の中に入れていた宝箱は空いたけど、金庫はまだ閉じているというべきですかね」
何とも微妙にわかりにくい例えを出してくる……。
えーと、監禁されてるけど手錠はとれた、でもそれ以外の鍵はかかったままってことかしら。
あるいはマリッサさんの首輪は取れたけどマヨヒガちゃんから出ることはできないと。
「無能……」
「それを言われては立つ瀬がないですな。はっはっはっ」
笑ってる場合なのかしらね……いいけど。
「それで、この国はこの後どうするべきかしら」
「知りませんよ人間の国なんか。滅ぼうが栄えようが、仮初の肉体を封印しているだけの場所。妲己の言葉を借りるならばそうですね……借り宿と言ったところでしょうか」
「つまり……封印を完全に解いたらここを出て行くと」
「まぁそのつもりですが無理でしょう。封印するのに美徳の力を使っているので。美徳の封印を解けば我と彼奴の戦いでこの大陸の半分が消し飛ぶんじゃないでしょうか」
ふむ……同等の力を使って封印しているから解いたらぶつかり合うことになる。
そうなったら泥仕合が続いて大惨事と。
……いや、そんな重要な拠点をあっさりとプレイヤーに落とされる辺りゲームバランスおかしいわ。
運営仕事しなさいよねまったく。
「ちなみに封印されている美徳というのは?」
「節制です。我の対抗馬にして分かり合えない存在。フィリア様と言えど奴を倒すのは難しいかと」
「でしょうね。妲己から貰った邪悪結界でも時間が足りないでしょうし……かといって説得できるような相手じゃないのよね」
「えぇ、化け物である我ら、そこの黄色いとかげでは不可能です。彼奴にとっては敵も同然ですから。たとえ我ら三人が協力したところで彼奴の攻撃の前では……そうですねぇ、そこのとかげは真っ先に死ぬでしょう。次にフィリア様、弱ったところを我が叩いたとしても大陸の2割が消えるかと」
うーむ、私やゲリさんじゃ無理か……。
ん? 三人じゃ無理なのよね……それに化け物だとダメ。
ということはよ?
「キャシーは?」
「その者は力こそありますがまだ未熟。節制と渡り合うのは不可能でしょう。我とて力は互角と言いましたが、まだまだ力の使い方が甘い小娘に負けるつもりはございません」
「まぁ……そうなるか」
「望みがないとは言いませんが、はっきり申し上げて我と節制はこのままにしておくのが吉かと。不用意に事を荒立てるよりも静観するべき時もあります」
それはそうなんだけどねぇ……強力な武器というのは時に抑止力になるのよ。
今でこそ無効化の手立てができてしまった核兵器、昔は核の傘なんて言い方をされていたように。
うん、核兵器の根幹である原子力の源である分裂融合を阻害してしまう電磁場の開発に成功して以来世界から核兵器が消えて、代わりにその電磁場を発生させる機械を積み込んだミサイルなんかが台頭して、じゃあもっと単純な方法でいいじゃんということで衛星から金属の塊落とす方向にシフトした結果地上汚染の少ないクリーンな殺戮兵器ができてしまった。
結果として衛星を持つ国は強国となって、日本も核の三原則に含まれないそれを保有するに至った……まぁ秘密裏にだけどね。
各国の重鎮はそれを知っているけど国民が知らない状態。
だからこそVOTなどの開発に成功してもなお攻め込まれることなく、ちまちまとスパイやらを送り込まれてる感じではある。
あわよくばベルゼブブにはその位置についてほしかったけど……いや待てよ?
これうまくいけば同じ使い方できるわよね。
「ねぇ、封印されてる節制を解き放ったらあなたと殺し合いの末に大陸が半分は吹っ飛ぶのよね」
「えぇ、最低でも4割は。戦場を広げようと思えば8割更地になります」
「なるほどなるほど……じゃあベルゼブブには悪いけどその身体はここに封印したままでいいかしら。いざとなったら節制の封印も解く。異論は?」
「あるわけないじゃないですか。強いて言うなら定期的に贄が欲しいですね。人じゃなくてもいいから食べ物を」
「それはわかる! ご飯抜きはきつい!」
「ですよね! 食は人が生きる上で何より重要! 我人じゃないけどその意志から生み出されてますから!」
「やっぱ話わかるわね! ゲリさんの尻尾時々齧っていいわよ!」
「ほう、あのとかげですかな? 美味いのですか?」
「味は鳥に似ているわ。けれど歯応えがいいのよ、もっちりしていてしっとりとした感じで……例えるならば絹のような繊細な……。ちなみに鱗は固焼きのビスケットみたいでサックサク! 脳みそはトロトロで、血は燃え盛るように熱く喉越しは極上のブランデーのような味わいよ!」
「なんとなんと! それはそれは!」
「そんなゲリさんが時折肉体を捧げるから、あんたはこの国を守ってくれるかしら? もちろん飽きないように他の食材も提供してもらうわ!」
「そういうことであれば喜んで!」
「というわけでゲリさん! そしてこの話を聞いている英雄プレイヤーのみなさん! これからこの国は彼がおさめます! ちなみにレベルは……いくつ?」
そーっと逃げようとしているゲリさんの首根っこを掴んで掴まえる。
子竜化した状態だと本当に気配薄くなるから困るわね。
「あ、っすー……176です」
結構高かった……私まだ120代なのに。
「さすが! あと子竜化解いて?」
「うす……」
ずもももとゲリさんが大きくなっていく。
いろいろ進化しているのか尻尾の先端には炎、翼は雷を纏った風が吹きすさび蔦が覆っている。
角は水のように流動していて奇麗で……とまぁなんか精霊の特徴全部持ってるドラゴンと言った風貌。
「さて! ギルドの心配とか国のこととかあると思うけど、彼が国を統治してギルドの外部協力者になってくれるわ! 効率的なレベリングも先輩プレイヤーとして教えてくれるし、戦闘訓練も受けてくれる! ついでにたまにドラゴンや精霊の素材なんかも貰えるわよ!」
私の言葉に悩んでいた様子のプレイヤーたちが目を輝かせ始めた。
「ついでにお金に困ったならその素材マーケットに流しても文句言わないと約束するわ。さぁ、決めなさい。この国にしがみついて小銭を稼ぎ続けるか、彼にゆだねて大金と強さを得るか!」
私の言葉にその場は静まり返った。
しかしそれも一瞬、次の瞬間には大歓声が上がっていた。
ふっ……目先に吊るされたニンジンが小さいなら大きなニンジンを吊るせばいいのよ。
やっぱり人間って愚かだわ。
とかげ、実はかなりの高レベルプレイヤー




