英雄プレイヤー機動戦士好きすぎ問題
「クソガキ……お前は俺の……」
「僕は! 僕はねぇ!」
「止まるんじゃねえぞ……」
「悲しいね……」
「モウヤメルンダ!」
うーん、ラストバトル……といってもエキシビションマッチを別とした場合なんだけどね。
装備がきちんとした英雄プレイヤーが大隊くらいの人数で攻めてきた。
が、弱い。
考えてみれば私のレベルが今120を超えたところで、ゲリさんもそのくらいのはず。
それと遊びとはいえ一緒に戦えるキャシーもそのくらいのレベルはあって当然。
対する英雄プレイヤーは「初心者」であり、キャシーなんかは英雄プレイヤー全員がゾンビアタックして何日もかけて戦うようなレイドボスみたいなもの。
うん、まぁ負けて当然よね。
「命は玩具じゃないんだぞ!」
「お前らが言うなー」
キャシーの肩越しにヤジを飛ばす。
うん、NPCと戦争してレベリングしてたこいつらが言っていいセリフじゃないわ。
「なんでそうも簡単に人を殺せるんだよ! 死んでしまえ!」
矛盾しているようで実は結構理にかなった事を言ってくる……が、やはりお前らが言うな。
この国の惨状を見るに国の立て直しとか考えてないしろくな運営していないのは火を見るよりも明らか。
しかもさっき解説の人が言ってた「ギルドの予算がやばい」とかいう辺りから察するに、そもそものギルド運営がガバガバなんだと思う。
うーん、たしかこの前ちらっと見たけど英雄プレイヤーは年齢が低いって書いてあったわね。
上は大学生……縁ちゃんくらいとして、下は下手したら中学生とかかしらね。
法的に生体認証による年齢確認からの表現規制は入っているはずだから、ゴア表現とエロ表現は緩和、あるいは完全モザイクの音声途絶となっているはずだけど……教育に悪いわね、英雄になろうオンライン。
化けオンも大概だけどさ、あっちは略奪とかしてなかったから。
みんな化け物で、好き勝手に歩き回って、町中じゃ常に警備が目を光らせていたからね。
安全だけど、ルールの内側でのみの安全だった。
こっちは逆に英雄という立場でちやほやされてた感じかしら。
古いゲームで主人公が他人の家の箪笥漁ったり、ツボ割ったりするような感じ。
あの運営だからそのくらい仕込みそうだしなぁ……。
あと以前聞いた話だと「化けオンが思ったよりもギスギスしてなくて悲しい」って話だったから、たぶん英雄の方はもっとぎすらせるつもりだったんじゃないかしら。
結果的に世紀末になったわけだけど。
「はいラスト」
とかなんとか考え事してたら最後の一人をキャシーが足技で切り刻んでしまった。
……なんか新しい技生み出してるわ。
「おーっと! なんと我らがギルドの誇る騎士団が全滅してしまった! これは侵入者の勝利か! ……え? マジで? これからギルド運営どうすんの?」
「おーい、エキシビションマッチまだー?」
「そうだそれが残ってた! さぁ最後は侵入者全員と我が国の地下に封印されていた悪魔の王との戦いだ! これに勝つことができればこの国の所有権は侵入者、改め挑戦者に移ることになる!」
おん? 悪魔の王?
「さぁおいでませ! 我らが悪魔王! ベルゼブブよ!」
「我を呼び覚ますのは誰ぞ……空腹なり……空腹なり……贄を用意せよ……」
なにやら黒い魔法陣が現れ、そこから出てきたのはおっきな蠅だった。
うん、なるほどなるほど……。
「はーい、元悪魔王のベルゼブブ君? 悪魔の王様名乗ってるって結構な度胸よね?」
「……我、封印されているので眠いです。帰りますごめんなさい」
ズズズズと魔法陣に沈み込んでいこうとしたので頭部を掴む。
「ねぇ、蠅って結構美味しいのよ?」
「ほんとすみませんでした!」
世にも珍しい蠅の土下座、その光景に子竜化を解除して警戒していたゲリさんも、強敵を相手にできるとわくわくしていたキャシーも唖然とした様子でこちらに目を向けていた。
……その化け物を見るような目、やめてほしいわ。




