ダンジョンアタック
遅れました!
病院混んでた……。
「さぁ、まずは前哨戦。森で掴まえてきたゴブリンの一団だ!」
ガラガラと檻が運び込まれてきた。
中には緑の小鬼、ぎっちぎちに詰め込まれててなんか可哀そう……なんて感想よりも先に臭い。
とにかく臭い。
牛乳拭いた雑巾を3年放置したような臭いがする。
というか檻やらかごやらにみっちり詰め込まれた何かなんて実験動物やらゴキブリやらで見慣れてるから可哀そうとか思わないわ。
「あー、これダンジョンアタックの一種みたいっすわ。ログが出てる」
「え? ほんと?」
慌ててメニューを確認すると確かにダンジョンアタックと表記されている。
ルールはこれから出てくるモンスター軍団に10連勝すること。
その後に行われるエキシビションマッチに勝利することでこの国の支配権を得られると……いらねぇ。
「ゲリさん、王様なりたい?」
「この国建て直すのは面白そうだけど、都度寝首かかれそうになると考えるとなぁ……」
「シミュレーション好きなんだ」
「結構好きっすよ。山羊になるシミュレーションしたり、草のシミュレーションしたりで結構時間潰しますから」
VOTに入るようなゲームは時間食いすぎてできないけど、と悲しい事を漏らしながら天井を見上げるゲリさん。
なんか……もう、本当にお疲れ様です。
「あとはシステムエンジニアとしてこういうちまちましたの結構好きなんで」
「へぇ、じゃあ安全なら王様。あるいは領主みたいなのになってもいいと」
「まぁ……はい、安全で俺らの仕事の拠点にできるなら」
「じゃあその辺りは任せてもらおうかしらね。私が守るわけじゃないけど」
「何考えてるかわからないですけど……いざという時は俺がリーダーってことっすか?」
「そうなるわね。私はちょっと厳しいし、キャシーは子供だから」
うん、私の場合悪魔王の種族持っているからね。
別にこっちの世界に国を作っちゃいけないってルールはないんだけど、悪魔の王様が人間の国を従えているという絵面はあまりよろしくない。
これは人間にとっても悪魔にとっても、そして化け物プレイヤーにとっても英雄プレイヤーにとっても同じことだ。
人間と英雄プレイヤーからは言うまでもなく感情論でアウト。
悪魔からは「自分の領地放置して人間支配かよくそが」と下克上の危険、いやまぁ別にこんな立場くれてやってもいいんだけどせっかくだからタイトル防衛はしたいじゃない?
その回数が増えるのが面倒くさいだけで。
それで化け物プレイヤーは「自分達でも同じことできるかも」ってやらかす人が出てくる。
司馬さんとか絶対対抗するためにやらかす。
だから無理、やばい、面倒ごとの匂いしかしない。
というわけでゲリさんに丸投げすることにした。
「それで、あれ誰が処理します?」
「大将は最後に出てくるものだからゲリさんは却下。絵面的にキャシーが行くのはちょっと……ということで私が行くわ」
ずずいと前に出て拳を構える。
幼女とゴブリンの戯れって響き自体がなんかいかがわしいし、その戯れの内容が幼女による虐殺というのもね。
「おいおいまじかよ! 女一人であの数相手に太刀打ちできんのか?」
「このゲームゴア表現はもちろんエロシーンも見れるんだろ? ガキよりいい絵が見られそうだぜ!」
「おらさっさと負け認めて脱げよ!」
……プレイヤーが見ているのよね、随分と品がないわ。
英雄というか蛮族というか……あれかしら、勇者を再翻訳すると蛮族になるっていう。
まぁどうでもいいけどさ、一人気になること言ってたわね。
あの数相手っていうのはえっちな意味じゃなくて、戦闘的な意味でというニュアンスだった。
ゴブリン、化けオンでは雑魚の代名詞ともいえる種族。
とにかくステータスがひっくい。
ほとんどのステータスがマスクデータになっているゲームだけど、有志……主に検証班による努力の結果スライム、スケルトン、ゴブリン、ゾンビの最弱四天王はおおよそのデータが知られている。
その結果、最弱を飾ったのはゴブリンだった。
ゾンビは打撃に強く、スケルトンは斬撃に強く、スライムは双方にそれなりの耐性があるがステータスが軒並み低いということだった。
対するゴブリンは打撃に弱く斬撃に弱く魔法に弱く、そしてステータスが糞雑魚という扱いを受けている。
化け物プレイヤーの常套手段としては森や山岳でゴブリンに仲間を呼ばせて一網打尽にするのが初期レベリングで最も効率のいい方法となっていたのである。
まさかとはおもうけど英雄プレイヤーはそのゴブリンすら強敵なのかしら……。
旅団単位できても一般的な化け物プレイヤーなら「めんどくさい」としか思わない相手なんだけどな……。
まぁいいや。
「では、はじめ!」
「ふんっ!」
拳を突き出し、衝撃波を飛ばす。
瞬間、わらわらと檻から出てきたゴブリンたちは肉塊へと変貌して消滅していった。
……うん、別にこっちのゴブリンが強いとかそういうのじゃなかったわね。
むしろ弱かったくらいだわ。
「勝負あり! 侵入者の勝ち!」
その言葉に落胆の声が上がった。
……賭けでもしてたのかしらね。




