おかえりオンライン
刹那さん「ガンシップ3ダース魚雷戦で潰しました、人間大砲で」
朝の雑談の後、起きてきた祥子さんを交えて更に雑談を続けた私達。
気が付けば出勤時間になっていた祥子さんが眠ったままの縁ちゃんを担いで、一会ちゃんと一緒に公安に出向いていた。
フレイヤさんもそこに付き添う形で同行して、うずめさんは「今日はお出かけしてくるねー」と軽い調子で出て行った。
クリスちゃんとマリッサさんは死んだ魚のような目で延々と糞映画見てる。
フレイヤさんにお勧めされて、感想を求められたらしい。
強制じゃないけど、ミッション形式でクリアしたらご褒美が待っているということで生粋のゲーマーであるクリスちゃんはその無謀なミッションに挑んでいるのだ。
マリッサさんは多分暇つぶし、もっと正確に言うなら時間の無駄遣い。
……まぁ、私も過去に美味しいご飯につられてやったけどさ、控えめに言って地獄だったね。
死にたいって思ったのは後にも先にもあの時くらいなもんだわ。
というわけで、フリーの時間ができたので1万面ダイスのデータをぶち込んだVOTに寝転がってログイン!
えーと、戦争が終わって両国の王様が仲良くなって、宴会して全員酔いつぶれて、それで厨房の料理食べつくしたのよね。
それで徹夜しちゃったからログアウトして……それでフレイヤさんが来ててマリッサさんに襲われて、辰兄さん呼びつけて……なんて濃密な時間だったんだろう。
「……戻ってきたか、化け物」
「国王がレディの部屋で出待ちとかどうなの?」
「お前がレディだったらそこら辺のおっさんもレディ扱いだわ」
「張ったおすわよ?」
「やってもいいが国の後始末は任せていいんだろうな」
「やだ」
「……はぁ、まぁいい。もとよりここは客間、お前以外も使うからな。いざという時の来客に備えて俺も何度か寝泊りして安全性だの快適性だのを確かめているんだ」
「それ王様自らやることなの?」
「いや? ただ贔屓目で見るよりも抜き打ちでこういう事やって抜かりないようにしておいた方がいいだろ?」
「なるほどね……」
抜き打ちの持ち物検査みたいなものか。
あるいは道路の取り締まり。
「それで、何の用事?」
「あぁ、お前には特使の役目を頼みたくてな」
「特使って……」
「今回戦争していた三国に加えて、きな臭い動きをしている国がある。……いや、国と言っていいのかわからないんだがな」
「どういうこと?」
随分と言い淀んでいる。
というか、なんか複雑そうな顔しているわね。
これは見覚えがあるわ。
会社勤めしてた時に出張で極秘データを取引先に届ける仕事してる時に、そのデータ狙った海賊に諸共拉致られて、会社に切り捨てられそうになったから全力で反撃した結果会社側が土下座してきた時のような……あの時の上司の「なにやってくれてんだよこいつ、もっと早くそれやってくれよ」みたいな恨みと怨念と恐怖と怒りと、だけど部下が使えるとわかって今後のことを考えると色々できそうみたいな、もうなんかいろんな感情がごちゃ混ぜになったような、そんな表情だわ。
「英雄共、いるだろ?」
「いたわね、なぎ倒したけど」
「あいつらな、三国の一つを武力で奪い取って新たな国を名乗ってる」
「はー、そりゃまた……国ってそんなに簡単に落とせるの?」
「普通は無理だ。だがどっかの化け物がうちで言うリリークラスの人間を戦場で屠ったからな」
おっと、藪蛇だった……。
「そこに特使って、どういうこと?」
「戦争する気はないけど仕掛けてくるなら全力でぶちのめすって内容だ。ある種の脅しだが……奴らは死んでも蘇るからな。最終的にこちらが不利なのは間違いない」
「まぁそうね」
ゾンビアタックは基本だし。
「そこで、お前には我が国の貴族の位を用意した。形式的なものだから権力振りかざさなきゃ何してもいい。他にも報酬は用意するから特使として出向いて、牽制してきてくれ」
ふむ、私の経験と直感からこれ出向いたら面倒ごとが待っている気がする。
なので1万面ダイスを転がして……。
「なにをしている」
「いやちょっとね、趣向を変えてみようかなって」
ころころと転がっていく1万面ダイス。
それは壁をすりぬけ、どこか遠くへ消えていった。
……そっかぁ、化けオンは外部データもちこむとこんな風になるんだぁ。
たしかに武器のデータとか持ち込んで悪用されたらダメだもんね。
そしてほぼ球体のダイスとなればこうもなる……諦めるか!
「報酬は美味しいご飯とお酒でよろしく」
「いいだろう、国が困窮しない程度にかき集めておこう」
まったく、リアルが忙しかったというのにここにきてゲームでもトラブルとはね……。
やったろうじゃないの!




