日常風景に見えるか? 明らかにSFかファンタジーの日常だろこれ
それからは帰って、マヨヒガちゃんにお願いしてチャート表を作成してもらって、ご飯をしっかり食べて寝た。
寝起きは最高、とまではいかなかったけれど……うん、昨日の陰鬱とした気分は抜けている。
よく見れば隣で祥子さんが猫のように丸まって寝ている辺り、相当心配かけていたんだなぁと痛感してしまった。
その短く切りそろえられた髪をさらりと撫でてから、久しぶりに台所でコーヒーを淹れる。
なんとなく懐かしい、最近は他のみんなに任せっきりだった気がする。
こうしてコーヒーを淹れるために台所に立つのはそれこそ前の家にいた時以来じゃないかしら。
もしくは覚えていないだけかもしれないけれどね。
でも、うん、こっちの家は蛇口から髪の毛出てこないからいいわぁ。
マヨヒガちゃんがそういうの追い払ってくれる……というか捕食してくれるから面倒がなくて助かる。
直接攻撃してこない、脅かすだけの幽霊なんていちいち払っていたらきりがないからね。
そんなの渋谷のスクランブル交差点にいる人を一人一人殴り倒せと言われるようなもんだから。
『おはようございます。今日は早いですね』
「おはようマヨヒガちゃん。そんなに早い?」
そういえば時計を見ていなかったわ。
『えぇ、現在朝の4時を少し回ったところです』
「あぁ、通りで祥子さんも寝ているわけだわ」
あの人公安勤務のお偉いさんだけあって朝早いのよね。
それがあんなにぐっすり眠っているとなると、そりゃ早朝もいい所か。
「昨日お願いしたのってできてる?」
『できています。全1万通りの状況に合わせたチャートを1万個ずつ』
「すごいわね。無理させちゃったかしら」
『いえ、この程度ならば江東区全域のPCをフル稼働させれば余裕でした』
「そう? でもたまにはゆっくり休んでいいからね。何かあったら私か縁ちゃん、うずめさんの誰かが対処するから」
『お母さんやそのご友人の手を煩わせるなど』
「マヨヒガちゃん、人は助け合いをする生き物なのよ。私の娘だというのなら人に助けてもらうことを覚えなさい?」
『……わかりました。では今後毎週水曜日にお休みをいただきます』
「ついでに月曜日も休んでおきなさい。祥子さんが一番忙しい日だからうちに帰ってくるのは遅い時間、何かあっても対処が楽だから」
『はい、お母さん』
素直でいい子ね。
とは言ったものの、まぁこの家に近づこうと考えるのはよからぬ思いを抱いた人間だけでしょう。
幽霊だの妖怪だのは縁ちゃんの残り香があるから絶対に寄ってこない。
歩く除霊装置みたいな子だからね、心霊スポットだろうが霊場だろうが、一歩足を踏み入れたら全部吹っ飛ばす。
この子が実家の地下蔵立ち入り禁止になっているのはそういう理由もあったりする。
うん、もう跡形もなく霊魂とかの痕跡が消滅するんだけどその際物品に憑りついていたりしたらそれも壊れるから。
たまに壊れる事でようやく本領発揮と言わんばかりに呪いをぶちまける物も置いてあって、そういうのは得てして本体から漏れた呪いだけでも致死量に達するなんてこともある。
まぁ……縁ちゃんなら箱ぶっ壊して出てきた呪いも即座に蒸発させるでしょうけど、それでもどんな被害が出るかわからないからね。
「それと、ここ数日うちを見張ってるのいるじゃない?」
『気付いてましたか』
「えぇ、あれ来週の月曜日に呼び込みましょう? 派手に暴れさせるから壁とか壊れたらごめんね?」
『問題ありません。壁や天井、床の破損など人間でいうところの爪の先が欠けた程度のダメージです。修復も数分で済みます』
「ならよかったわ。せっかくだから何か作ろうかしら……マヨヒガちゃん食べたいものある?」
『お母さんが作ってくれるんですか? なら……カレーは楽しみにしていますが、今はチャーハンが食べてみたいです』
「チャーハンね、おっけー」
長らく愛用してきた鉄鍋にたっぷりの油を入れて、卵を軽く炒めてから30個の炊飯器で炊いたご飯を投入。
お醤油で軽く味付け……というかほぼ色付けね、して完成の簡単なチャーハン。
けどね、これめっちゃ難しいのよ。
薬味を使わず、お肉を使わず、卵オンリーの黄金チャーハン。
久しぶりに作ったけど上手くできてよかったわ。
以前中華街で修行させてもらったのは無駄じゃなかったわね。
あの時は……先輩が目つきの悪い同僚に「米がばらけてねえ、これがチャーハンのつもりか?」って煽られてた。
結局最後はお店の賄い食べまくって、店の食材食い尽くす気かって追い出されたけどいい勉強になったわ。
「美味しい?」
『はい、ふんわりとしているのにパラパラで、卵の風味を最大限に引き出す手腕。私にはまねできません』
「今度教えてあげるから一緒に作りましょう?」
『はい! ぜひお願いします!』
ふふっ、こういうところはなんかしっかり親子できている感じがして嬉しいかも。
何かと頼りすぎな感じがしてたからね……。
それからしばらく、祥子さん達が起きてくるまで私達は他愛のない話をして過ごした。
雑談も、たまにはいいものね。




