作戦会議
「作戦会議をしよう」
誰かが唐突に言い出した。
声の方向に視線を向けると先日倒した鬼のお兄さんが声を上げている。
「このまま町に戻れないとなるとこの場を拠点にしなきゃいけない。けれどここはモンスターも出てくる。はっきり言って危険だ」
「そりゃそうだが……あの連中をどうやって倒すっていうんだよ。レベルで負けて、装備の性能で負けて、属性も不利だぞ?」
「正攻法で戦わなければいい」
お兄さんに反論する言葉が出てきたけれど、別の方向からもう一つの声が上がった。
見たことない人だけど……私と同じ翼がある。
あれは夢魔かしら……男性だからインキュバスかな?
「俺は空を飛べる。ほかにもそういうプレイヤーは多いはずだから町の上空から大量に岩を落としてやろうぜ!」
「残念だがそれは無理だと思うぞ? セーフティエリアである町は外部からの攻撃を無効化する何かがある。多分ゲーム的には攻撃が飛び火しないようにされたシステムで、設定的には結界的な何かだと思う」
「じゃあマンドラゴラ特攻はどうだ? あれなら町中でも使える」
「町に近づけないだろ? あのパーティだったら無双状態になって終わりだし、マンドラゴラでどこまでダメージ与えられるかわからん。時間を置けば回復されて、しかも俺達はマンドラゴラの悲鳴で一撃で死ぬから連続して声を聞かせるのは無理だ」
「じゃあこういうのはどうだ」
会議は踊る、というけれど本当にそのとおりね。
一見有益そうに見えるものから、机上の空論が過ぎる物までなんでもござれ。
そもそも私達はこの場に居合わせているだけの立場だから、連携を取ろうとしても無理がある。
ペナルティが解けた瞬間に後ろから刺されるかもしれない相手だという事を忘れている人すらいる様子。
うーん、これは難航しそうね。
もしかしたらこのイベント、こういうのを狙っていたのかしら。
多分人間側も今何かしらの会議みたいな事やってるはず。
あっちはもっと酷いことになっているかもしれないわね。
連携して私達を撃退することを目的として運営から設定されているけれど、あの勇者パーティの持つ装備やドロップアイテムは魅力的だと思う。
だからさっくりと不意打ちしてみたいなことを考えている人もいるだろうし、イベントに忠実に参加して勝とうとする人もいるかもしれない。
うん……これは案外使えるかも。
「人間プレイヤーに裏切りを持ちかけたらどうかしら。私達じゃ勝てないけれど、人間プレイヤーが断続的にマンドラゴラ使うなり、不意打ちで心臓や首、脳天をぶち抜くような攻撃ができたら倒せるかもしれないわ」
私の発言に周囲の人たちが固まる。
絶句、といわんばかりの表情をしているけどなにかしら……。
「それ、仲間割れ誘発しているよね。というか斥候していたバニラプレイヤーもここに送られているから難しいんじゃないかな。彼らにうま味もそんなにないし」
「直に暗殺狙ったり、こちらに情報流すようなことしたらいけないんでしょ? じゃあマンドラゴラは事故扱いにできるかもしれないじゃない。それにうま味はあるわよ? ドロップアイテムであの武器が手に入ったら……なんてのはみんな考えているかもしれないじゃない?」
「そりゃそうだけどさ……さすがに気が引けるというか、これでイベントに負けたら戦犯としてつるし上げくらうようなことをしたがる人っているかな」
「それは……いるんじゃない? 良くも悪くも目立ちたがりっているから。そうね、そういう人に心当たりがあってフレンド登録している人がいたら呼びかけてみてほしいわ。やって無駄になることもないでしょ?」
「まぁ、やるだけただだし声掛けくらいはしてもいいかもな。誰か心当たりある人は頼んだ」
鬼のお兄さんの言葉に何人かが動き出す。
フレンドチャットでメッセージを送りつけているんでしょうね。
それにしても、このイベント人間に有利過ぎないかしら。
彼らは銀装備とかで私みたいなプレイヤー相手に有利をとれる。
もちろん銀弱点じゃないプレイヤーもいるから、そういう人にはあっさり負けたりしているけれど戦力として勇者パーティが加わっているあちらが圧倒的に有利。
だけどこっちはねぇ……レベル1桁、よくて10かそこらの人しかいないわけだからレベル的不利があるし、あちらの魔法使いは全属性魔法を使ってくるとなると何かしらのデメリットを積んでいる化け物プレイヤーの不利は必須。
甘く見ても7:3で人間プレイヤーが有利よね。
それを運営が良しとするかどうかという話をすると……性根の腐った化けオンの運営でもそれはしないわね。
良くも悪くも彼らは公平で、だけどその裏に含みを持たせている。
どう見ても片方の陣営が不利になるような真似はしないと思うわ。
「ねぇ、もう一ついいかしら。明らかに人間プレイヤーが有利な状況ってゲームコンセプトの破壊につながるからおかしいわよね。だとしたら勇者みたいな存在……魔王みたいなのが化け物プレイヤー側にいてもおかしくないんじゃないかしら。どこかに封印されているとか、勇者パーティに負けて弱体化しているけどこちらについてくれるとか」
「お助けキャラか……誰か心当たりはあるか?」
お兄さんの言葉にざわざわと困惑の声があちこちから上がる。
もしかしたら、という声も出ているけれどそれらしい情報はないらしい。
うーん、あちらは防衛となると決定打がないと太刀打ちできないのよね。
「とりあえずなんだけど、ペナルティ解けたら東西南北それぞれを分担して捜索。それっぽい物を探してみるのはどうかしら。プレイヤー同士の戦闘はご自由にどうぞという感じで、イベントクリアに向けて個々人が勝手に攻略の糸口を探す。毎日朝昼晩……時間的には8時、12時、20時にここで会議をする形でそれも参加自由で」
「まぁそうだな……うん、他にできる事もないだろうしそうしようか。お姉さん名前は?」
「フィリアよ。今ちょっと録画しているんだけどイベント終わった時に自分の顔を映してほしくないって人がいたら言ってね。その時は全体にモザイクかけておくから」
せっかくなのでちょっと宣伝しておく。
モザイクの件もね、了承をえられない人が1人でもいたら全体モザイクは当たり前よ。
編集が面倒なのもあるけど、少人数にモザイクかけると逆に特定されやすくなるから。
「俺はレイジ、以前負けた覚えがあるけど間違ってる?」
「いいえ、正しいわよ。あなたからのドロップアイテムは有効に使わせてもらったわ。同時に友好にも使ったけどね」
「だよねぇ、あの時は見事だったよ。とりあえずフレンド登録いいかな」
「どうぞ? 情報共有してくれるなら私も助かるから」
「俺も、フィリアさんからの情報は有益そうだなと思ってる節があるんだ。少なくとも向こうの内部分裂を狙うなんて平然と言い出せる精神の人はそうそういないから。いても発言するのはまず無理」
「なかなかの評価ね、期待に沿えるように頑張らせてもらうわ」
そう言って互いに握手を交わす。
……ビキッという音と共に指の骨が折られたわ。
笑顔でいる当り、この人わざとね……意趣返しのつもりならこちらだってそのうちやり返してあげましょう。
ふふふ……。
鬼のお兄さんは名無しのモブキャラですが、このゲームやってるだけあっていい性格しています。




