通称奥多摩の人口削減陰謀論
私は今滅茶苦茶怒られています。
一会ちゃんと祥子さん、そして普段は怒りをあらわにしないというかそれすら面倒くさがる縁ちゃんに。
「刹姉? ちゃんと聞かせてくれるわよね、あのけだものを呼び込んだ理由」
「せっちゃん? そんなにお説教受けたかったんだ」
「刹姉……白状しないなら、〆る」
正座しています、空中で。
縁ちゃんに片手で持ち上げられてるのよ、首絞められながら。
「えーとね、捕虜がいっぱいいるじゃない? その尋問に……」
「刹姉、15年前の惨劇を忘れたとは言わせないわよ」
うぐっ……15年前。
私がまだ小学生で辰兄さんが高校生の頃のことだ。
浮気しまくって学校の女子全員誑かしたあげく、教師にも保護者にも手を出した辰兄さん。
当然ながら物凄い恨みを買って男子生徒やら男性保護者によって拉致された辰兄さんだったが……その後全員誑し込んでしまったのだ。
しかも全員が全員、辰兄さんの毒牙にかかり、結果として歳が近かった永久姉が毎日栄養ドリンクとエナジードリンクのカクテルを10杯飲んでいた。
当然お父さんやお母さんも慌てて対処したが時すでに遅し。
結果的にその人達はみんな辰兄さんから距離をとる形になり、相応の金額を渡して引っ越してもらうことになり奥多摩の人口が減った。
そのダメージは私はもちろん、一会ちゃんや羽磨君が高校生になった頃でさえも辰兄さんたちの年代の半分程度しか生徒がいなかったのである。
当然学校の教育も質が落ちてしまった。
ついでに辰兄さんは浮気を許さない陣営にめった刺しにされて、永久姉から傷が治らない呪いをかけられて、そしてお父さんとお母さんによってぼこぼこにされて庭先に吊るされた。
【題名:馬鹿の末路】という立て札と共に。
なおその日のうちに脱走して私も山狩りに参加させられたのは苦い思い出。
「だ、大丈夫よ! 地下に軟禁するから!」
「刹姉、永久姉が言ってた。殺す」
「ストレートな殺害予告だぁ……」
「それともう一つ、辰兄は脱走の達人」
「うぐぅ……」
そうなのよね、辰兄さん脱走が無茶苦茶上手いのよ。
縄抜けはもちろん、手錠も指枷もするりと抜ける。
関節くらい簡単に外すし、血流を絞って腕や指先を多少なりとも細くすることだってできる。
さらには小さな突起、それこそ鉄板の錆び程度の物でも指を引っかけてのぼれるし、素手で地面を掘る事だって容易。
だからどこに閉じ込めてもあの人はあっさり逃げだす。
「祥子さん、鎖と拘束衣、それと用意できるだけの拘束具を用いて辰兄さんを北極に置いてくるという案があるのですが」
「せっちゃん、国民の血税を何に使う気かしら」
あ、やべぇ……これガチギレモードだ。
目だけが笑っていない。
ひたすらにこちらを睨みつけてくる視線、それが痛い。
「そのお金は私が負担しますから!」
「そもそも、あの人を公安で雇うつもりだったんでしょ? だったらせめて有効活用しなさい。そうね……今回喧嘩売ってきた、というかせっちゃんが喧嘩を勝手に買った世界公安局とやらにスパイとして送り込みます。そのための資金援助はする、けれどせっちゃんはその3割負担。どう?」
「その方向でお願いします」
「そう、縁さん」
「ん」
祥子さんの一声でごきゃりという音と共に頸椎を砕かれてから私は解放された。
いたたたた……さすがに脊髄へのダメージはかなり痛いわ。
骨だけならまだいいんだけどね……。
「それで、その問題児は?」
「私が捕まえて、任せろと意気揚々で酒瓶盛って突撃したうずめさんと、後から合流したフレイヤさんが晩酌してるわ。あの二人なら大丈夫でしょう」
大丈夫かなぁ……うずめさんは割とその辺しっかりしてるけど、フレイヤさん頭のねじ吹っ飛んでるから。
「まぁ、私と永久姉と縁で厳重に縛ったから平気でしょう。人並み未満の力しか発揮できないように呪術的に縛っているし」
「なら大丈夫ね。その状態でうずめさんが負けるとは思えないし、フレイヤさんもなんかやらかすことはないでしょう」
「……………………」
「なんですか祥子さん、その沈黙」
「辰男さん、今公安の檻に入っているんだけどフレイヤさん達そこに突撃したのよ。ネットに接続したPC持ってね」
「あ……」
「これから全286話耐久糞アニメ視聴会らしいわ」
Oh……あの懲役刑……まぁ、うん、大丈夫でしょう。
「あとうずめさんだけど、注射器もっていったわ。中身はアルコール」
「……なかなか有用な手段ですね。あの人も酔っぱらったら流石に動き鈍るし、1ガロンぶち込めば大人しくなりますから」
「これだから伊皿木家は……」
時系列的には総理大臣とかに怒られた直後、帰宅してからです。




