盛るぺこ!
「あの糞部長! なーにが監督責任よ! こっちだってねぇ……うわーん!」
「どうどう祥子さん、落ち着いて。ほらお酒はもうそのくらいでお水でも」
「なによー、だいたいせっちゃんがいつもやりすぎるのが悪いんじゃない! 縁さんはマイペースだし一会さんは有能だし……永久さんは怖い」
「あー、はい。どうぞお酒のお替りです」
「ん……ぷはっ、おいしい」
よかった、祥子さんは今判断力を失っている。
久しぶりに疲れたのか相当酔っているようだ。
おかげでコーヒーブレイクからの晩酌がどえらいことになった。
どのくらいかというと、普段は酔わない祥子さんがこの通り。
なおこの後泣き上戸になってから眠って、寝ている間は甘え上戸になるというなんとも……うん、なんとも質の悪い酔い方をするのだ。
そしてその間の記憶が残っていない。
判断力もカスなのでお水をお酒と偽って飲ませてもばれないくらいだ。
「ねーせっちゃん……ひっく、私そんなに仕事できないかなぁ」
「祥子さんは頑張ってますよ」
よしよし、と頭をなでる。
なんか普段はしりぬぐいばかりさせているから新鮮。
といっても、私が原因なんだけどね。
「あの糞部長がさぁ……一会さんを昇進させようかってさぁ……有能なのはわかるけどさぁ……うわーん、えーん!」
「ほら祥子さん、テーブルで泣かないで私が胸貸しますよ」
「わーん! ……駄肉!」
「あいたぁ!」
おっぱい鷲摑みは痛い……特に酔っ払いの手加減抜きのこれは!
「せっちゃんなんであんなに食べておなかよりも胸に行くのよ! 下着のサイズ変えたの知っているんだからね!」
「なぜそれを!」
「うちでまともに家事出来るの私と一会さんしかいないでしょ! わーん! せっちゃんにまた差をつけられた!」
「わ、私は祥子さんのサイズ好きですよ! 手に収まるサイズでちょうどいい! 過ぎたるは猶及ばざるが如しとも言いますし!」
「持ってる奴はみんなそういうのよ! どーせあれでしょ! せっちゃんは肩が凝ってつらいわーとかいうタイプなんでしょ!」
「え? 肩こりって経験したことないんですけど……」
「なーによー、鍛えてますアピール? せっちゃんはひどい女だ! 私がデスクワークで頭脳労働だから甘いもの食べて太っていくのを見ているだけのひどい女だ!」
まずい、何がまずいかって祥子さんが普段とは違う酔い方をしている。
スピリタスラッパ飲みし始めてるし……今日は泣き上戸の合間に怒り上戸が来た。
あと拗ね上戸。
かわいいんだけど、面倒くさい。
仕事が忙しいときにかまってとキーボードの上に乗ってくるねこ並みにかわいいけど面倒くさい。
しょうがない……ここは伊皿木家直伝流派奥義を出すしかない。
「祥子さんお疲れみたいですしマッサージしますよ」
「えー、せっちゃんにそんな繊細なことできるのー?」
……うざがらみに発展している。
スピリタスおそるべしね。
「こう見えてうちでは3番目にうまいんですよ」
ちなみに一番は辰兄さんで、二番は一会ちゃん。
まぁ羽磨君もうまいんだけど、知識に技術が追い付いていないところがある。
縁ちゃんはそもそも覚えてないし、永久姉は普通にへたくそ、刀君は加減ができない、なので私と羽磨君が境目になっているのよね。
「はーい横になってー」
「うーい」
「ふむふむ、肩こりに腰痛、胃もあれてますね」
「誰かさんのせいでねー」
「それは失礼を、ではさっそく」
もみもみと、筋肉をほぐしていく。
繊細な動作で文字通り筋繊維をほぐすつもりでね。
そしてつぎに関節の可動域を広げられるように伸ばす。
最後にツボをつく!
「こひゅ!」
祥子さんが悲鳴を上げてガクリと気を失った。
んー? 間違ったかな?
変なツボは押していないから大丈夫だと思うけど……あ、ここあれだ。
肩こり防止のツボじゃなくて贅肉になるはずのカロリーやエネルギーを筋肉にするためのツボだ。
うーん、最近体重やプロポーション気にしてたからヨシッ!
でもあんまりマッチョになられても嫌だから、おっぱいが育つツボも……いややめておこう。
祥子さんのプロポーションは今の状態で完成されているんだ。
下手に盛るなんて許されない行為……たとえるならメガネっ子からメガネを奪うに等しい行為だ。
なのでせめてものお詫びに健康になるツボ片っ端から突いていった。
これで明日には元気いっぱいになるわよ。




