本番
その後は化けオンにログインして、ご飯の時間まではゲーム。
ログアウトしたらご飯を作りつつ、動画の編集とそれなりに忙しい時間を過ごした。
二日目、三日目も同じような流れではあったけれど、デスペナが消えたことで戦闘力を取り戻した私は強かった。
草原で狙撃してくる弓使いがいれば弾幕をかいくぐり接近して心臓を一突き、剣で挑んでくる相手がいれば両腕を切り落として血を飲み干して撃破、モンスターがいれば殺して使役して近隣のプレイヤーを蹂躙していった。
当然負けもある。
相性の問題だが、銀の装備を持っているプレイヤーや、炎属性の攻撃ができる相手にはあっさりと負けた。
また聖水を使った罠などを用いた戦術にはまってしまったときはしてやられた。
どうやら掲示板では私の話題が出ているらしく、対処法などが考案されては実行、戦果をあげれば有益な戦術として流布されていったらしい。
結果として私の勝率は最終的に五分五分に落ち着いた。
ペナルティを受けたりもしたけれど、なんだかんだでレベルは10まで上がったのでよし。
食材アイテムになりそうなものもいくつか手に入った。
逆に食材には使えそうにないけれど、トレードに使えそうなアイテムも多数手に入れた。
特に厳しかったのは二日目の終盤、私の種族は必要ポイントが多いからそれなりにレアなアイテムをドロップするという事で集中砲火されたりもして、結構なペナルティを受けることになってしまったから。
それでも三日目は落ち着いたのか、比較的のんびりと過ごせた。
イベントといっても体験会のようなものかと参加者の気が緩んでいたのだろう。
四日目の朝、事件は起こった。
「この町にはびこる魔の者を排除する」
そう宣言する者が現れたのだ。
アイコンの表示からしてNPCであることは間違いない。
多くのプレイヤーがイベントが進行したと喜んだのもつかの間、4人のNPCによって町にいたプレイヤーたちは全滅した。
いや、正しくは人間の、バニラプレイヤーを除く化け物ビルドプレイヤーが全滅したというべきだろう。
一人残らず、瞬く間にだ。
四人の特徴は荘厳な防具に身を包み、眩いまでの剣を携えた少年。
二本のナイフを自在に操る暗殺者のような装いの少女、いかにも神官らしい服装の女性、大釜でもあればまさしくといった風貌の魔法使いの四人だ。
抵抗したのは言うまでもないことだけれど、私は早々にペナルティを受けることになった。
少年の剣が輝くと同時に、私は死んだ。
おそらく聖属性の武器、いわゆる聖剣というものだろう。
その力の一端を前にして敗れ去った。
復活したのは町の入り口ではなく、以前ペナルティエリアとして落とされた森の中だった。
後から続々とやってくる人たちから話を聞けば口々に答えた。
「あの男に切られたら一撃で死んだよ」
「魔法使いのねーちゃん、聖属性以外の魔法何でもぶっ放してきやがる……ありゃ勝てねえわ」
「神官のお姉さまに浄化されました……罵ってもらいたい」
「ナイフ持ってた女の子かわいいわ……あ、気が付いたら首と胴体が泣き別れしてたよ」
……たまに変な感想が混ざっていたけれど、要するに4人のNPCに化け物系プレイヤーは全滅させられた。
それが意味するところは全員が理解していた。
「糞運営がぁ! レベル20の敵って人間かよ!」
「ありゃ俗にいう勇者とかそういうのじゃないかな……」
「そういやエネミーと書いてあったけど、モンスターって書いてなかったな」
「人間性を犬に食わせてるのは運営自身だったか……あいつら人の心がねえな」
そう、私たちの真の敵とは人間だった。
……と、シリアスに語ってみたんだけど実のところ悲壮感滲ませてる人は誰もいないのよね。
なんというか当然の帰結ともいうべきなのかしら、みんなどこかで納得している節がある。
化け物を倒すのは英雄だけど、英雄を殺すのはいつだって民衆だって昔の偉い人が言った通りこういうイベントなんだと。
そもそも運営の性格の悪さを承知でプレイしているんだから、この程度はあって当然と納得していた部分が大きいのよね。
同時に、こんなゲームに身を投じる人といえば結構な変わり者が多い。
変わり者というのは少し語弊があるかな、大なり小なり王道よりもわき道を好む系のプレイヤーというのかしら。
はやりのゲームみたいに冒険者になって、モンスターを倒して、仲間と強大な敵を打ち倒す……なんてのには飽きたヘビーユーザー。
むしろゲームに出てくるモンスターがどれほど恐ろしい存在なのかを知っているからこそ、そして堕ちた英雄さんのことを知っているからこそ、謎と共に普通のゲームとは違う冒険が楽しめると嬉々として乗り込んできた人が多い。
中にはゲリさんみたいに「かっこいいドラゴンになりたかった!」という理由だけで突撃してきた人もいるんだけど、そういう人ほど「無様に負けて諦められるか! ドラゴンの本領見せてやるわ!」と息巻いてたりするからわからないわね。
ちなみに今朝はゲリさん、ログインしていなかったみたいなのでこの場にはいない。
フレンドチャットなどで町の外にいた化け物プレイヤーに注意喚起が行われ、一部の人は掲示板で情報共有を行っていた。
また人間プレイヤーと仲のいい人はスパイのようなことを頼んでいるようだが、大した時間を待たずにそのお相手がペナルティを抱えたままリスポン地点に飛ばされた。
そして、ポーンと間の抜けた音と共に運営からメッセージが届く。
【セーフティエリアが勇者パーティによって浄化されました。今後町の中は戦闘地区として扱われます。イベント中に勇者パーティを撃退することができれば大量ポイントゲット! 出遅れたと思っている方は頑張ってくださいね】
そのメッセージを見た瞬間、場の空気が冷え切った。
張り詰めたようなピリピリとしたそれは下腹部がキリキリするような重苦しい物、まるで初めて堕ちた英雄さんとエンカウントした時みたいな恐怖と共に、数多のプレイヤーの怒りを肌で感じ取ることができた。
「野郎ぶっ殺してやる!」
「運営涙目にしてやる!」
「勇者だかなんだかしらねえけど、初心者狩り先導した運営糞! 月額製だったらやめてるぞこのゲーム!」
「つーかさ、あの勇者倒したら聖剣ドロップするのかな」
「……ありえるな、他にも何かしらの方法で奴らの肉体を取り込んだりしたら新しい種族特性を得られるかもしれない」
「狩るか」
「狩りじゃ」
「ひゃっはー! 逃げないやつは勇者だ! 逃げるやつはよく訓練された勇者だ!」
とまぁ、この通り。
みんな多かれ少なかれ人間性を犬に食わせてるのよね、キャッチフレーズ通り。
ちなみにペナルティ抱えてここに飛ばされた人間プレイヤー側には勇者と協力して町を守り抜けというメッセージが届いたらしい。
はっはっはっ、やってくれるじゃないか……絶滅タイムだな、うん。
まだ町の料理食べ歩き完了してないんだぞ糞が……!
やってまいりました、レベル20エネミー。
具体的な戦闘力の指針ですが、レベル5の化け物プレイヤーと同等の戦闘力を人間プレイヤーが得るにはレベル10が必要です。
ただしここに化け物プレイヤーはデメリットレベルが存在するため、明確な弱点があり同レベルでも倒すことはできます。
主にフィリアがやられた戦術がそれでした。
逆に言えば弱点を突かなければ厳しい戦いになるのですが、人間プレイヤーの場合初期ポイントが全部お金に換算されているため最初から上等な装備やアイテムを持つことが可能です。
この差は後々響いてくるため、運営は対策として種族の追加と装備の重要性などを盛り込んできました。
前の章でフィリアが得た装備の性能が高くないと言っていたのは、様々な条件から(聖属性が付与されていたり、寒さ対策がされているため炎属性と認識されたり、素材に銀を使っていたりする)化け物プレイヤーが装備できる物は限られているという事です。
ゲリとかげに至っては一切の武器防具装備できません、持ち前の鱗で頑張って。
ビスケットみたいに食べられてたけどくじけるなゲリとかげ。
ゾンビアタックで頑張るんだゲリとかげ。




