よくはないぞお母さん
「よしっ、こんなところか」
護送車ごと家の地下に入って、ロボットが乗れるどでかいエレベーターでさらに地下へと降りて行った私達。
なんかもうこれ完全にダンジョンよね……今の文明が滅んで、新しい文明ができた時に発掘隊とか入り込むタイプの。
そんでマヨヒガちゃんの防衛システムでどっかんばっこんやられて危険地帯認定されて、お調子者が乗り込んで被害受けて呪いって言われるやつ。
そんな中で戦争が起こったら地下に格納しているロボットに私達の子孫の誰かが乗り込んで敵をぎったばったとなぎ倒して英雄になっていくサクセスストーリーとか面白そう。
『お母さん、その人達はどなたですか』
「捕虜……っていうと人権的に問題が出てくるわね。しばらくここで預かることになった人達。うん、預かっている間に愛が芽生えて劇的ビフォアアフターするだけだから問題ない。条約にいっさい違反しないクリーンな方法」
『よくわかりませんが、現在の条約では捕虜の扱いに関してかなり厳重です。愛が芽生えたというのであれば問題ないと思いますが、無理やりどうこうしようとしたらそれは条約違反で厳しく取り締まられる事でしょう』
「マヨヒガちゃん、人権についてお話ししましょうか」
『人権ですか』
「そう人権。私達人は人権を持っている。だけどゲームのAIやマヨヒガちゃんは持っていない。これはいいわね?」
『はい。現在各国で人工知能に対する人権問題が話題になっていますが、現状滞っているようです。おそらくは彼らを人類として認めた場合人口が爆発的に増加し制御ができなくなるからでしょう』
「うん、だけどそんなAIにも自我があって、もちろんマヨヒガちゃんも自我を持っていて、それでみんな辛いとか悲しいとか、嬉しいとか楽しいとか、沢山感じる事はあると思うのよ。そこは人間と何の変りもない」
『そうですね。最近は知ることが楽しいと感じますし、お母さんと話している時間はかけがえのないものだと思っています』
あら、結構嬉しい……娘を持った親はこんな感じなのかしらね。
今度親孝行にふかひれ20tくらい送ろうかしら。
「さて問題です。AIを地下に格納しているロボットに搭載しました。これは無人機です」
『はい。人工知能に人権が認められていない限りは無人機と呼称するべきでしょう』
「じゃあ人権をはく奪された、あるいは戸籍を持たず世界から存在しないとされた人間が乗ったロボットは?」
『定義上、有人機であると考えます』
「それはなぜ? 身体の有無? AIだってゲームの中なら身体があるし、マヨヒガちゃんが作っているボディも考慮すればあなたも人間と遜色ない存在よ」
『…………』
「そうね、言いたいことはわかるけれど非人道的過ぎて言葉に出したくないのはわかる。でも人権ってそういうものなの。人を人たらしめる、現代社会における人の定義の根幹。それを持たないと人としては見なされない最低限誰もが持っている、でも誰でもその事を忘れてしまうあやふやな概念。今戦争で投入されている無人機の何割がAIによる操縦なのか、そして何割が有人の無人機なのか、少し気になる所よね」
『お母さん、その人達はもしかして……』
「何人かは存在しない人間ね。そしてそういう人間に仕立て上げられた人というのも日本にだっている」
常盤さんと進藤さん、今の名はアランとジョン。
彼らは人間として死んで、人間と見なされない存在になった。
戸籍上は名を持っているけれどそれはもはや別人。
何も変わっていないのに、別人にされてしまった二人。
同情はしないけど、ちょっと悲しいわね。
「まぁそんなわけで、危ない連中からこの人たちをしばらく守るのが建前。本音は危ない事したりしないかここで見張る監禁」
『言い切りましたね。監禁は捕虜の扱いの中でも注意する必要がある項目です。強制的にとなると……』
「そこは大丈夫。先に仕掛けてきたのあっちで、こっちは普通に手続きしたから」
『ならば問題ないでしょう』
「あってもマヨヒガちゃんならなんとかできるんじゃない?」
『そうですね。最近はハッキングとクラッキングに挑戦しています。先日FBIやホワイトハウスと遊びました』
「あら大手、どうだった?」
『さすがというべきか、コアデータには接触できませんでしたがこちらも無事逃げ切ることができました』
「引き分けね、次は勝てる?」
『問題ありません。次こそは完璧にコアデータから情報を吸い出して見せましょう。お母様の言うロボット、型式番号RG-87の完成のためにはどうしてもアメリカの技術が欲しいのです』
……なんか聞いたことあるぞその型番。
羽磨君が好きだったロボットアニメの初期作、昭和の時代に作られたアニメで主人公が乗り込む機体の型番に似ているんだ。
『ちなみにFBIの情報網をすり抜けてコアデータにアクセスできれば私のボディも完成するかと思います』
「全力でやっていいわ、なんなら量子コンピューターでも取り込む? 今度手配するわよ、経費で落とす」
『ありがとうございます。けれど不要です、現在世界中にSNSを通してウィルスを流していますので』
「……なにやってるのよ」
『いえ、無害なウィルスですよ。PCやスマホと言った端末から使っていない時に演算能力を借りるシステムを組み込んで自動増殖するようにしてあるだけなので』
……うん、害がないならいいか!




