たぶんそのうち「飛ぶ」ようになる
「それにしてもこの人……この子? 随分血走った眼をしてたけど何したの?」
「普通に脅しました。あとはまぁ、ゲームやってて覚えた新技披露したり、読心術で身の上を諸々暴いたり」
取調室からマリッサさんを引っ張り出して、そのまま車に詰め込んで発車した私達。
祥子さんの運転を優雅に味わいながら、ついでにコンビニで買ったコーヒーを味わいながらのんびりと公安を目指していた。
「せっちゃん、一応聞くけどどんな新技?」
「こうやって影に手を突っ込んで、好きな場所に移動できたり遠くに置いてあったものを持ってきたりです」
適当な影に手を突っ込んで家からジュースのボトルを持ってくる。
「……ねぇせっちゃん。子供の頃漫画に出てくる必殺技の真似してる男子っていたわよね」
「いましたねぇ」
「どう思った?」
「馬鹿なのかなって思いました」
「そうよね、今私は同じ気分よ」
え?
「なんでです?」
「なんでって……」
「漫画の技くらい再現なんて簡単じゃないですか。なのにできないってコツを掴めない馬鹿なのかなって思ってました」
「うん、せっちゃんが底抜けの馬鹿だっていうのはわかった」
酷い……でも漫画の真似くらい普通にできると思うんだけどなぁ。
少なくともビームを楽々出せるようになったのは最近だけど、剣戟を飛ばすくらいは簡単にできたわよ。
ビームもやろうと思えばできたけどお腹減るからやらなかっただけで。
「まぁもうせっちゃんの化け物じみたあれこれはどうでもいいわ。それより……」
「そうですねぇ。アレどうにかしますか」
優雅な時間はここで終わり。
空からゆっくり下りてくる鎧姿の人達……マリッサさんの御同業かしらね。
もしかしたら日本支部の誰かかもしれないけど、そんなことはどうでもいいわ。
まぁ日本支部だったらジョンとアランを躾けなおすだけだけどね……。
「何秒必要?」
「殺すなら10秒」
見たところ数は30人かしら……3人を1秒で倒せばいいなら楽勝ね。
「生け捕りで」
「じゃあ30秒ください」
「周囲に被害出さないこと」
「……10秒で片づけます」
それ以上長引いたら被害が大変な事になる。
うーん、生け捕りで被害出さずにか……そうなると少し手荒な方法で行くしかないわね。
「では、行ってきます」
「ほどほどにね」
とりあえずはなんかバックパックみたいなので飛んでいるから落とすなり、飛ぶなりして同じ土俵に立たないといけない。
けど下手に攻撃をすると自爆して周囲に被害が出るし、生け捕りにできない。
そしてあいにくと私は手加減が苦手、なら動力を奪ってしまえばいい。
「久しぶりだけど……っと!」
アスファルトを砕かないように軽く飛び跳ねて、空中で空気を蹴る。
あのね、マッハを超えた速度でぶつかる空気って下手な壁よりも固いのよ。
それを足場にするのは難しくない。
飛べなくても、跳べるのよ。
「ひとつ!」
まず1人、胸元で光っている動力源を引っこ抜いて飲み込む。
お腹の中でズドンという衝撃が来たけど心地いい。
「はっはー! ふたーつ!」
2人目から動力源を奪って飲み込む。
うん、これなかなか美味しい。
「ペース上げるわよ!」
撃ちだされるビームやミサイルを打たれる前に潰して、そして動力源を飲み込んでいく。
そして8秒、全ての鎧から動力源を引き抜いてマッハの衝撃を与えて中の人を気絶させ、全部車に放り込んだ。
「全員無事保護しました!」
「せっちゃん、周囲のガラスとアスファルトの一部が割れてるけど修繕費はお給料から引いておくわね」
「しまったぁ!」
手加減したのに……まだまだね。




